子供の頃、額に傷を負って帰ってきた私を一番に怒ったのは唐須くんだった。

 不良少年少女の集まり場だと近所の人から煙たがれる場所は、私の秘密基地のようなものだった。近所の兄である飛鷹さんの後を引っ付いて回るうちに、子供らしい憧れの的だった人とは違う格好良さを持つ彼等に駄々を捏ねて仲間に入れてと言っていた。当然、飛鷹さんは首を横に振るだけであり、鈴目くんは女の子は危ないと必死に宥めようとしてくれたのをよく覚えている。そんな中、唐須くんだけは、威勢の良い餓鬼だと乱暴に頭を撫でて色々な場所に連れていってくれたものだった。
 今になって知ったことだけれど、彼が私を連れて歩く度に、彼は当たり前といえば当たり前なのだが、飛鷹さんにこっぴどく怒られていたらしい。何故、危ないところに連れていくのか。そう彼に問われた唐須くんは、私が好奇心旺盛だからと言っていたらしい。一人でどこかに行かれるよりは、俺がついていた方がいいでしょう、なんて彼が飛鷹さんに口で勝てたのはそれが最初で最後だったようだ。
 然しながら、名前もまた一人で何でもやりたい年頃だったこともあり、彼等に何も告げずに一人怪しげな場所を探検したことがあった。結果的に、特に喧嘩などには巻き込まれなかったものの、自分達の縄張りと決めた場所に小さな少女であれど、見知らぬ子供が入ってこようとしたのだから、帰った帰ったと建物の入り口に立つ名前を軽く押したら体重の軽さもあり、転んでしまったのだ。
 大怪我する程でも、また泣く程痛くもなかったけれど、突き放されたことへの寂しさから名前は泣きながら唐須達の元へ帰っていく。何も泣かすつもりも、怪我をさせるつもりも無かった男は、小さい子を泣かせてしまったことへの罪悪感はやはりあったようで、その日の気持ちは暗くなっていた。

 その当時、一人での冒険の罰だというように膝を擦りむいて帰ったことに唐須はどうして俺と一緒に行かなかったのかと散々名前を怒鳴りつけ、鈴目はそんな名前が唐須に怒られたことに泣き出すのを宥めながら怪我の消毒をし、ちょっと野暮用だと出て行く飛鷹にお供しますと名前を可愛がっていた仲間は付いていった。
 泣き止めば偉い偉いと飴を差し出す兄の様な人々を蹴り飛ばしてから彼等よりも大きな飴をそっぽを向いたまま差し出してくれた唐須に、名前は再び泣き出して謝りながら彼の腰に抱きついた。
秘密基地と名をつけた場所は、幼い頃の私にとっては、かけがえの無い居場所だった。
 世間から非難を浴びる彼らだけれども仲間内には不器用なりにも優しくしてくれる。其れを改めて実感できた私は傷を消すことを嫌った。
 そうはいえども、傷は時間が立てば消えてしまうので、変わりにバンドエイドを貼るようになったのを、家族は首を傾げていた。

 時を遡り現在、流石に小さい子供のようにバンドエイドをいつまでも貼っているのは恥ずかしいので、装飾布を付けるようになった。流石に女らしくするようになったかと笑う仲間と共に今日も私は笑って過ごしている。