堅忍不抜 と彼は言う
「入って」

そう、少年に言われて押し込められたのは件の駐車場の地下であった。
一般立入禁止と貼られた扉を、鍵を開けることもなく私を押し込め入っていく。
つまり、私は分厚い鉄の扉を生身ですり抜ける、と言うとんでも体験をした、というわけだ。
中へ入ると、ひどく埃っぽい室内に置かれている、椅子と言いたくはないような鉄パイプで拵えられた椅子が三脚。
そのうちの一脚はひっくり返され、人を捉えるための鉄塊として利用されている。
そこに括り付けられた少女は、額に汗を滲ませ体をよじり、口元を縛られた隙間から、なんとも言えないうめき声を上げていた。

「……ッ!んん゛んぅうう!!!」
「こ、これっ……」

思わず少年を振り返ると、鋭いものが背中に押し込まれる。
ブツッとした小さな衝撃に、チクッとした鋭い痛みが走り、私は息を呑む。

「次は刺すって言ったよ」
「……っ、」コクコクと頷き、私は少年から視線を逸らす。
まだ背中に軽く当たっただけだ、と思う。
けれど、目の前の少女は髪をざっくばらんと切られ、頬をパンパンに腫らしている。
なんとか、しなくちゃ。
もう、私はそれで頭がいっぱいに埋め尽くされた。
ここにいるのは、どう見ても少年少女だけで、頼れる人は居ない。
絶対に爆豪君は来てくれる。
けれど、今きっと冷静ではないこの少年が、いつ癇癪を起こしてしまうかも知れない。
嫌な汗がドッと噴き出していく。

「手出して」
「……」

言われたままに、私は両手を少年へと向ける。
無言で静かに結束バンドを通していく少年の指先は、矢張りどう見ても、まだ大人のものではない。

「そっちが悪いんだから」
「……ぇ、」
「兄さんを、捕まえたそっちが悪い」
「…………」

唐突に発された言葉に、私は何も言えなくなってしまいそうだった。
外から遮断された、発電設備の点在するこの狭い空間で、私ができる事になんて限りがあって、しなくてはいけない、考えなくてはならない事は多すぎる。

「なんのためにアイツの親父使ったと思ってるの。意味ないじゃん」きつく手を握り、拳を作る少年の手には、依然として刃物が握られている。
ブルッと震えた少女も、刺激しちゃいけない。

「……」
「だからだよ、ああやって、見せしめに痛めつけてる」

それでも、どこか自嘲気味に笑う少年を、私は責めつける事など出来そうにもない。
できる事なら自首をして、罪を償って欲しい。
お兄さんとともに、また二人で生きていってほしい。
彼らは、この社会の産んだ被害者なのだ。
彼らの母親は、子供を育てると言うことが出来る人では無かったのだそうだ。
父親は職場で大怪我をし、首から下が動くことはなくなってしまったのだと言う。それが、今から8年前の事故である。
そうなると、必然的に子供の面倒を見る事のできない母親が夫を看る事ができる筈も無い。少年達の通学履歴は一度、そこで止まっている。
何があったのか。ここからは想像しかできない。
想像しかできないが、この少年はお兄さんの話しかしていない。それが答えのようなものではないだろうか。
恐らく、彼らの父親はもう息をしてはいないのかも知れない。
お兄さんが捕まり、彼らの家に捜索が入った事は情報を貰っている。けれど、それ以上の話は無かったのだ。

「……」私は何も言えなかった。
「そもそも!そもそも、こんな事をしなくちゃいけなくなったのは大人のせいだから。ずっと、俺たち二人でやってきたんだ。どんな時も!都合が悪い時だけ口を挟みやがって……!!」

目に、抑えきれないほどの涙を浮かべる、真っ白な肌の少年の気持ちを、私は想像することもままならない。
想像したところで、わかることなんて無いのだろう。
それでも、それでも。
犯罪を犯しても許されるだなんて、それは違う。
そうじゃない。

「……」
「だから大人が責任を取るべきだ。邪魔をするから悪いんだよ」

きっと、それはこの少年もわかっている。
だから誰にでもない、自分自身に、今言い訳をしているのでは無いだろうか。

「座って」
「……」

スッと刃物を向けられる。

「早く座って!」
「……」響く怒声に、私は小さく頷いた。
これ以上、罪を重ねさせてはいけない。
きっと彼は後悔する。
どうにか、私もこの少女も死なないように。
それから、少年もなるたけ傷つかないように。どうにか切り抜けなくちゃ、いけない。
喉がカラカラに乾いていく。
なのに不快なほどに手のひらは汗ばむ。
爆豪君、たすけて。

「靴はどうしたの」
「……」小さく首を左右に振り、無いことを伝えた。
「……そんな目で!見んな!!」

ずっと視線を逸らすことが出来なくなってしまっていた私の頬に、少年の拳がぶつかった。

「っあ!!」

腕も縛られていたから、手をつくことも出来ずに強かに右肩を地面へと打ちつけた。

「ん゛んぅぅう!!!」

唸る少女に「大丈夫」と言い聞かせでもするように、小さく頷いたけれど、その拍子に痛んだ手首がわからないほどのパニックにはまだ陥ってはいない。

「っくそ!!クソ!クソ!クソ!!兄さん返せよ!!お前らが悪いんだろーがッ!!!」

地団駄を踏む少年が、ずっと幼く見える。
大人びて見せているけど、本当に大人なわけではない。
大人と子供の間で、したいことと出来ることのギャップに苦しんでいる、子供なんじゃ無いだろうか。

「……っう、」

とはいえ、殴られた頬は痛いし肩も痛む。
今、掴み上げられた髪だって痛いし、食い込んでいく結束バンドも酷くしみる。

「……お前らが悪いんだからな、逆恨みしないでね」

刃物が、私の方へと向けられている。
どうしよう。
どうしようどうしよう!
死にたくない!
なにか、何か気をそらさせないと……!
腰が震えて、力なんて入らない。
体中が、汗でぐっしょりとしてきている。
目の揺れる、見るからに冷静ではない少年を前に、私ができる事なんて、なにもない。

「ねぇ、どうしてそんなに、……誰に、そんなに言い訳をしてるの」

声は自分が思うよりもずっと震えている。

「だまれ」
「何かあるなら教えて、……私も、ヒーローと一緒に働く人間だから、何かできることは絶対にあるから……!」

絶対、だなんて、嘘だ。
本当なら、彼らはこんなに追い詰められていなかった。
助けを求めているのに、こんなに苦しんでなんていなかっただろう。

「うるさい」
「……」

別に、彼らは何も悪いことなんて無かったのだ。
ただ、運が悪かった。それだけなのだ。
どうにかして助けてあげられれば、良かった。
せめて、誰か大人が話を聞く機会があれば良かった。

「俺は……俺たちは敵じゃ無かった、俺たちは普通に暮らしてただけじゃないか!!!」
「……」
「だから、そんな目を、してんじゃ……っ!!!」
「っ……!」

そう言って、振りかぶられた刃物をどうにか出来る術を私は持っていない。
キツくかたく目を瞑って、出来るだけ頭を守るように腕を上げた。



ドドドォン、と地面が揺れて、天井から土埃が降ってくる。

「避けてんじゃねぇよ」

BooooM!
耳に馴染みのある爆音と声に、一気に頭の中がクリアになっていく。
爆豪君だ。
爆豪君が、来た。
来てくれた。

「クソ敵が」

土煙の向こう側に、赤く爛々と光る目が覗く。

「だ、大……ダイナマイト!!」思わず私は声を上げていて、
「略すなや!!!」爆豪君はそれを合図とでも言うように、大きく体を捻り、少年をねじ伏せた。

「っわ!」

私の程近くで起きたその一連の動きに、思わず声を上げてしまったのは気付かないで居てくれると嬉しく思う。

「……」

爆豪君は静かに、もう一人の被害者となっている少女へと歩み寄る。

「ん゛ぅう!」
「大丈夫だ、良いか」

身を捩り、怯える少女に向けられた手は、紛れもなくヒーローのものだ。
紛れもなく、ヒーローの姿だ。

「触んぞ」

そう、少女が落ち着くのを待ちながらゆっくりと拘束を解いていく。
そのうち、頭上がパタパタと騒がしくなり、上からも、すぐそこの扉からも入ってきた警察の方たちに少年は連行されて行く。

「手ぇ出せ」

その間も、爆豪君はできる限り優しく少女の拘束を解いていて、私も警察の方たちもやって来て、拘束を解いていってくれる。

「大丈夫ですか、」
「あ、……はい、大丈夫……あ、あの、少年は……」
「詳しくはお話出来ません」

でも、安心して頂いて大丈夫ですよ、と頷いてくれる警察の方に私は頷いた。
そのうち爆豪君は少女を抱え、警察の人は私を支えてくれて地上へと出る。
なんてことの無い駐車場に差し込む光が真っ赤で、先の爆豪君の真っ赤な目を思い起こす。
やっぱり爆豪君は、凄いなぁ。

□□■■■

警察の車両に囲まれて、私は少女の直ぐ側に腰を下ろす。

「ごめんね、……遅くなって」
「……さん、……お父さん……」

彼女の父親は、私が昼頃に書類で見たあの男だろう。
娘としてその書類に載せた顔写真が一致している。
男が操っていたのではない。
男は、少年に使われていたんだろう。娘を人質に取られたからだ。
少女の背を私は静かに擦り、「もう、大丈夫」って言う事しか出来ずにいた。


「名字」
「はい!」

爆豪君の声がして、サッと立ち上がると、パトカー越しに真っ黒なマスクに覆われた赤い双眸と視線が絡む。
投げつけられた缶をキャッチしたのを確認してから、彼は静かに「そんまま、被害者見てろ」と言ったきり、また警察の方の元へと行ってしまった。

「っはい」
「……」

そのうち救急車もやって来て、「もう、大丈夫ですよ!」と警察の方と救急隊員の方に囲まれながら、少女は救急車に乗り込む。

「うん」
「遅くなって、すみませんでした」
「……うん」

ボロボロと、やっと泣き始めた少女に私はやっと息を吐き出して「遅くなって、ごめんね」と言えた。
何度も何度も頷く少女の背中を擦り、戻ってきた爆豪君が「出ろ」って言うまで、そうしていた気がする。


私は大丈夫、痛みが残っているところは無いから、と断って救急車を見送り、直ぐ側の生け垣に腰を下ろした。

「あの、ごめんね、先に戻れますか?」
「……」

ギュ、と爆豪君の目が窄まっていく。

「もう、警察の方も引き上げていってますし、……あの、車は乗って帰って貰って大丈夫なので……」
「おら、立てや」
「……」
「ボサッとしてんなや!!」
「あ、……っはい!」

赦してはくれないらしい爆豪君の喝に、なんとか足に力を入れようとするけれど、震えて上手く立てそうにもない。
だって、本当は少しだけ怖かった。
ほんの少しだけ、怖かった。
爆豪君が凄いことも強いこともわかっている。
絶対に来てくれる、と信じていた。
仮に爆豪君が来られなかったとしても、絶対にヒーローが来てくれる、って、信じていた。

「……」
「……あの、本当ごめんなさ……腰が……だから、先に……」

もう言葉が上手く出せなくて、そのうち腕も震えてきて、なんとか嗚咽だけは漏れないようにと抑えた口元からも息が漏れていく。

「……チッ」

短く舌を打つ爆豪君は私の腕を引っ掴み、サッと担ぎ上げてしまった。
あまりの事の速さにめまいがする。

「っわ!!ばく、!」
「しゃべんな」
「……あの、ありが」
「喋んなつったろが」
「……」

私が震えてるのは、爆豪君が歩くのに合わせて体が揺れているからだ。
それだけだ。
怖くなんて無かった。
本当に少し。ほんのちょっと、怖かった。
それだけだ。
それだけ。

「ありがとう、ございました」
「……」

車の前に降ろされる頃には、なんとか立てるようになっていた。

「遅くなった」

真っ直ぐに向けられる赤い目に、息が震えた。
情けなく、わんわんと泣いてしまいたくなる。

「……そ、……大丈夫です!問題ありません!もう立てますし!報告に行きましょう!!車、だ、出さなきゃ!!!駐車料金大変な事になっちゃう!は、早く乗りましょう!」
「おい」

運転席のドアに手をかけたところで、爆豪君の声が響く。
私は何も言わずに扉を開けたけれど、また「おい」と声をかけられると、そっちを向くしか無かった。

「はい」
「運転変われ」ゆっくりとマスクを持ち上げていく爆豪君が静かに言う。
「大丈夫で、」
「変われ」きっぱりと言い切られると、私はもう何も言えなかった。
「はい」


信号を、3度左折して、大通りへ。
暫く直進したら、右折。
街頭がチカチカと流れていく。

「……」
「……」

何も音のしない車内はひどく静かで、耳が痛んでくる気がしていた。
なにか、
なにかないかな。
そう思っても、爆豪君との共通の話題なんて持っていない。
また、助けられてしまった。

「本当は、ちょっと同情してます。……彼らにもう少しだけ、世間が目を向ければ、こんな事って無かったんじゃ無いでしょうか。彼が、拗ねてしまうのも……世間を恨みたくなるのも、辛いけどわかってしまいま」
「黙れ」
「……はい」

また、車内には静かな空気が痛いくらいに充満している。
チカチカと、街頭の明かりが流れていく。

「怪我は」
「ぇ、」
「そんだけかよ」
「はい」

唐突にかけられた爆豪君の言葉を聞き返してしまった。
きっと爆豪君も疲れている。
朝も大捕物を補助しに行っていたもの。
なのに、私のどんくささでこんな時間になってしまった。
しっかりしなきゃ。
ギュッと拳をつくる。

「ッチ」
「……」
「怪我しとんじゃねえわ」
「……はい」

事務所につき、駐車場に迷いなく一度で停められてしまった車は、まるで私と爆豪君の差のようだ。
パンプスを手渡され、投げるみたいに無線機も寄越される。

「あ、りがとう、ございます。……あの、報告には私が行きますから、どうぞ帰宅の準備を」
「ン」
「お疲れ様でした!」

フロントを抜けて、ベストジーニストの居るフロアの前で頭を下げてから更衣室へと向かう背中を見送った。

ベストジーニストに報告をして、無線機をデスクの引き出しへとしまう。
すぐに帰る気にはどうしてもならなくて、給湯室へと足を向けた。
それでも、はやく出ないとベストジーニストの迷惑になってしまうだろうから、5分。
5分だけ。

「……は、」

ゆっくりと備え付けのベンチに腰を落とす。
カシャンと、鉄が擦れる音が響く。
そう、と座らなきゃ。
気を、つけなきゃ。
手で口元を覆う。
腕を膝に押し付けて、なんとか体を起こす。
5分だけ。
5分だけ。
時計の音が、嫌に響いている。
5分だけ。


「……っ、立て、立て立て立て立て!」

膝が、ガクガクと震えている。
さっきよりもずっと、膝が震えている。
何度も深呼吸して、震える息を吐き出した。

ガチャ
と、給湯室の扉が開き、ベストジーニストが入って来る。
私は飛び上がり、そのまま自分でもひくくらいにペコペコと頭を下げた。

「名字、」
「お、お疲れ様で、す!!あ、あの、おさき、お先に、失礼します!!」

慌てて給湯室を出ようとしてすれ違った時、ベストジーニストの「周りを頼りなさい」と言う言葉に、また泣き出したくなった。
だめだ。
今は駄目だ。
立てなくなるから。
立てなくなる。


通勤で使っている、なんの洒落っ気も無いベージュのバッグの持ち手をぎゅうぎゅうと握りしめる。
もうほとんど人の居なくなったフロントの時計は既に22:00を示している。
はやく、帰らないと。
明日も仕事だ。
そのまま視線を出入り口へと向けると、鋭い真っ赤な目が私を見た。

「……わ!ば、く……」
「送る」

当たり前の事だ、とでも言いた気に、足を進め始めた爆豪君の背を慌てて追いかける。

「い、良いです!!いりませ……」私は言葉を途中で飲み込んだ。
まるで、般若のような顔が私を見下ろしたからだ。
ひっ!と、変な音が出たことは誰も気が付かないで居てほしい、と思う。

「じゃあ、その、駅まで……」
「……」

それで良かったのか、何も言わずに爆豪君は真っ黒なTシャツを夜道に溶け込ませていった。


駅まで辿り着き、私は鞄から定期を取り出したところで、爆豪君は静かにそれを見ている。

「あの、ここで……ありがとうござ、……」私は言葉を途中で飲み込んだ。
まるで金剛力士像ばりに恐ろしい顔が、すぐそこにあったからだ。

「……」
「……よろしくお願いします」
「ハナッからそう言えや!」

ギャン!と怒鳴り上げた爆豪君を、道行く人がチラッとだけ見ていくが、それは見なかった事にしておこう、気が付かなかった事にしておこう、と思う。

「ありがとうございます」
「……」

定期をリーダーに押し付けると軽快な音が響き、それに続いてすぐに軽やかな音が鳴り響く。
どうやら本当についてきてくれる気だったらしく、電車を降り、改札を同じように通る。
そのうち駅を出て、ロータリに立つ。

「……」
「どこだよ」
「……あ、」もう、本当にここで大丈夫。
と言いたいけれど、

「家教える以外のこと口走ったら殺ス!」

爆豪君はそれも許してはくれないらしい。

「ぇ、と……こっち、です」
「フン」

別に、並んで歩くわけでもない。
人二人分くらいの距離を開けて、それ、意味はあるんだろうか?ってくらいの距離を感じながら歩を勧めていく。

「……」
「……」

本当のところを言うと、今日は帰りたくなかったのだ。
意地を張って一人暮らしを初めて、帰る家はここになった。
でも、誰もいない。
私が泣いても「さ、もう寝なさい」と窘めてくれる人も「もう仕事の時間でしょ」って、情けない私に発破をかけてくれる人もいない。

立てなくなったら、どうしよう。

そう思ったら、一人の家に帰るのが怖かった。

「あの、……ここ、です」
「ん」
「ありがとうございます」
「ん」

踵を返す爆豪君に、思わず「お茶でも、」なんて口走ってから、「呆れた」とでも言いたげな目を向けられてハッとする。
なんてことを言おうとしているのか。
もう、今日は冷静で居れそうにない。

「あ、の……ごめんなさい、なんでも……その、……また、明日」

頭を下げてからもう一度上げた時には爆豪君は歩き始めていて、それを見送るより早くに私はマンションの階段を駆け上っていく。

「っは、は……っ、は、」

慌ててドアを閉め、鍵をかけて、チェーンを閉める。
カーテンも閉め切って、ベッドに腰をおろした。
お気に入りの香水を一振りだけ毎晩かけている枕を抱えて、大きく息を吸った。
そうしたら漸くボロボロと涙が溢れてきて、枕にぎゅうぎゅうと顔を押し付けた。

本当は、
本当は怖かった。
すごく怖かった。
死んでしまう、って、何度も何度も思った。
思ったら、まだまだしてない事ばっかりだ、って、いっぱい後悔した。
怖かった。
怖かった。
すごく、すごくすごく、怖かった。

嗚咽を枕に吸わせながら、ぎゅうぎゅうと、押し付けた。


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