■ 9
自分の家以外で、こうして皆で食卓を囲むのが久方ぶりで、少しむず痒い感情を抱きながらも、出されたものをこれでもかと掻き込む。
「もっちゃ、銀ちゃんズルいネ!それは私が目つけてたヨ!」
「もっちゃもっちゃ、んるへー。ペチャクチャペチャクチャ喋ってんじゃねーよ。黙って食え黙ってぇもっちゃ」
「あんたら本当に行儀悪いんでやめてください」
神楽に文句を言われつつも掻き込んだ煮物はそれはこっくりと煮込まれており、とても暖かくなる味だった。
作った本人は、要約すると「私の分は置いとけよ、」と言うようなことを言っていたが、残念なことにこの煮物はもう残りそうにない。
ウマイのが悪いのだ。
こちとら昨日の夜から腹がペコペコなのである。
皆でご馳走さんをした後に、新八に洗い物を任せて家主と共に作業場、もとい駄菓子屋になる予定の店へと戻る。
「本当にありがとうございます。こんなにキレイに仕上げて頂いて。あとは納品が昼前には来る予定なので、一緒に品出しだけお願いしても良いですか?」
「おー。その予定で話し貰ってるからそらぁ構わねぇが、」
とそこで言葉を区切る。
神楽を置いてたら片っ端から食いかねねえな、と思い至ったところで神楽と新八を万事屋へと帰す事にした。
「じゃ、あとは銀さん、お願いしますね」
「いくら飢えてても客は襲うんじゃネーぞ」
「誰が襲うかっつーんだよ。わかったからはよ帰れ」
シッシ、と二人を見送れば、しんと静まった店内に名前と二人取り残された。
ツイ、と顔を向けると彼女もこちらを見ていて、悪巧みをしたような悪戯な笑顔に、きゅんと胸が高鳴るのを感じた。
「坂田さん。私、良いもの持ってるんですよ。」
そう言って見せてきたそれに、同じくこちらも口角があがる。
「一緒にどうですか!」
出してきた団子を、二人並んで小上がりで食べながら荷物を待つ。
おばあちゃんが好きだった団子なのだと、景気付けにと笑う彼女にどこか胸が暖かくなるのを感じたのだ。
「でね、そのまま団子を喉に詰めて死んじゃったんです。」
そのときの団子も、この団子だったんですよ、
と話す彼女の方をゆっくりと見る。
「そ、そういう景気付けェェエ!?てっきり銀さんばぁさんに喜んでもらおうとか、そういうアレ?とか思ったけど、ナニその顔!?めっちゃ悪い顔してるんですけどォ?まるで親の仇見るような顔してるんですけどォォォオ?」
ていうかばぁさんに団子と餅食わせちゃいけません!!
叫びすぎて喉が疲れたところで、ズズズと茶を啜る女を小突いた。
「何笑ってんだよ」
「ふふっ、今日が命日だったんです。坂田さんのおかげで、良い日になりそうです。」
さて、車、きましたね!
と笑う彼女につられるように立ち上がる。
「あー。やるか」
団子も食っちまった事だしな、と。
重い足を動かした。
けれど、先程よりも、心なしか足は軽くなっていた。
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