■ 8

「ただいま。」
とカラリと扉を開く。
居るハズはないとわかっては居るのに、お店の中を覗く。

「おー。おかえりぃ」

ここ最近では聞きなれてしまった気の抜けた声。

「た、ただいま…です。」

思わず時計に目をやって、やっぱり驚く。

「え、え、ごめんなさい、私帰って良いって、」

「帰りを待つって聞かなかったんだよ」

顎をくいっと小上がりの方にやりながら、作業を続ける坂田さんに指された小上がりを見ると、まるで兄妹のように大の字で眠る二人がいた。
暖かい気持ちになりながら、2階の自分の部屋から毛布を取ってきて、二人にかけてやる。

「お茶にしませんか。」

と、坂田さんにお茶と軽い食事を出す。

「食べてないかと、思って。」

「たすかる。あ、アイツらにはナイショな。絶対うるせーから!」

シーのジェスチャーをする坂田さんに少し笑いながら、はいはい、と軽い返事を返す。

「泊まって行きますか?もう遅いですし。」

「……え?」







坂田銀時は、いつかの緊張を思い出していた。

(泊まって行くか、だ……と……!?)

優しく微笑む##name_1##名前にその気があるのか無いのかはさておき、
これは、
(ひょっとして、ひょっとしたりする?!いやでもまてよ。こいつには二回も前科がある。)
ニコニコ無害な顔して微笑んじゃいるが中々にアクティブなところもある食えない奴だ。
更には自分から人に襲いかかるという積極性まで兼ね備えているドスケベだ。
かと思えば「やっぱりむりぃ」なんて純情ぶる魔性でもある。
まるで猫のようなこの女はいつどこでまた
「ぶべらっ」

「何すんだ!!」

顔に投げつけられたコースターをちゃぶ台に叩きつける。

「いや、良からぬ顔してたから……」

ほらみろ、やっぱり暴力女だ。
とかなんとか考えながら、女が出してきた鍵を見る。

「……いや、いくらなんでも付き合ってもない男に鍵を渡すのはどうなの?いや、貰うけどさぁ?銀さんじゃなかったらあれだよ?襲われちゃってるよォ?いや、俺はほら、紳士だからァ?布団までは我慢するけど「203号室、空きなので、使って良いですよ。」

言葉を遮ってかけられた声は、冷たく響いた。

「神楽ちゃんたちは動かすのもあれなので、今晩はこのままここで預かりますね。今日だけ、ここのお店の鍵も渡しておきます。私は2階の管理人室に居ます。坂田さんのとなりの部屋になるので、何かあればそっちをノックしてください。」

ペラペラと話すこいつは、どうも今晩も共には過ごしてくれないらしい。
(いやべつにぃ?一緒に居てほしいとかじゃないしぃ?いや、何回もこうお預け食らうと意地になってくるというかなんというかってあれだから)
とか、誰にともなく言い訳を心の声として囁き続けながら、貰った鍵で部屋に入る。
管理人室以外は外階段から上がらなくてはならないという質面倒臭さはあるが、まあ、当然と言えば当然だろう。
貸してくれという客用の布団を借りて、目を瞑るものの、なぜか眠れず、水を飲もうと蛇口をひねる。

でない。

当然である。入居者が居ないため、開栓の手続きがされていないのだ。
仕方ない、と外の階段を降り、店の入り口に手をかけると抵抗無く開く。
無用心だろ、とこの女の今後を少し心配しながらキョロキョロと見慣れ始めた頭を探す。
見当たらないな、と小上がりの方を見ると、居た。

紙にOPEN☆と駄菓子屋が開くことを書いており、書きながら力尽きたらしい。
回りを見ても上にかけられそうなものもないので、自分の服を少しにおってからかけてやる。

(あーあー。だらしねェ顔してらぁ)

この顔を今見ているのは自分だけなんだという、よく分からない優越感にひたりながら同じようにだらりとちゃぶ台に顔をつけ、女の顔を眺める。
少し隈ができている。
よく見れば手はカサカサで。
彼女に手を出しにくく感じるのはこういうところなのだろうな、とふと思った。
大切に育てられて、それでいて必死に生きてきたのがわかるから、むやみに手をだしたりはしにくいのだ。
なんだか気安く触れてはいけない気がして、確かめるかのように触れていた手から手を引っ込めた。
そのまま眺めていたものの、気が付いた頃には意識が一度遠退いた後だった。



「おはようございます。」

にこやかに声をかけられる頃には彼女はもう人前に出る姿をしていて。
昨夜の無防備さは成りを潜めていた。
どこか残念に思いながらも、おー。と返事を返して、神楽と新八を叩き起こして顔を洗うために彼女の部屋にお邪魔することとなった。
念願の彼女の部屋ではあったものの、そういった感じは全く無く。
まさに
“おばあちゃんち”
そのものだった。

「まじで色気ねーのな」

「何か言いました?」

「なんもねー。」

彼女の声に返事を返しながら、洗面所で顔を洗い、食卓までのそのそと歩くのだった。



[ prev / next ]

戻る
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -