■ 1

暗い部屋で、煌々と指す光に迎えられ、長時間の棒立ちで疲れきった足を投げ出し、ソファに沈んだ。
光に目を向けると、水槽の中で歓迎するかのように魚達が集まりだし、こちらに向けて愛想を振りまく。
知っている。
別に愛想を振りまいているわけではなく、尾を振らないと泳げないのだ。
それに、彼らは私の帰りを待っていた訳ではない。
あくまでも、私が帰ってから貰える食事にありつきたいのだ。
恨めしい目でジトリと気ままな彼らをねめつけ、グイと彼らからの熱視線を遮るようにソファに顔を埋めた。

「……私なんて、いらないくせに」

ポソリとこぼれた言葉は誰も拾ってくれるはずもなく床に落ちるのだ。
ため息を1つ吐く。
のそのそと立ち上がり、今か今かと食事を待つ彼らに食事を与えてボーッと眺める。
青と赤の相反する色を体に携え、光を浴びてキラキラと。
眩しいまでの綺麗な色彩を持つ彼らは、まるで何も悩みも辛いことも無いようで。
少しだけ、恨みを込めて水槽の表面を小突く。
ビクッと体を揺らしてとてつもない勢いで去っていく彼らに、今日の居酒屋での出来事が思い出されて、クスッと、少しだけ笑みがこぼれた。



彼に出会ったのは、とっぷりと夜が落ちた頃で、
カラカラと彼が扉を開いた時だった。

「いらっしゃいませーぇ!」

入り口近くの席をダスターで拭き上げおわったばかりで、中腰になりながらも、大きな声でのご挨拶。

しゃーせぇ!

と店のそこかしこから従業員が山びこを返してくる音を背中に受けながら、
何名様ですか、と確認。

三人のお客様を席にお通しして、急いでおしぼりを用意する。
おしぼりを持っていく頃には注文が入り、ドリンクと、お通しの枝豆を人数分。

「今日はたんまり食えるアルな!」

と陽気な愛らしい女の子に笑みを浮かべながらも、オーダーを通していく。

「唐揚げ、10人前とお刺身の盛り合わせ5つ、釜めし三人前のセット4つと、焼き鳥の盛り合わせ5つ、食べ放題キャベツお1つと、田舎おにぎり5つ、間違いありませんか?」

「とりあえずはそれでヨロシ!」

「あー、刺身全部キャンセルねー。」

ふざけんな!とやんややんややり始めたお客様をなだめながら、お刺身をキャンセルして、串カツの盛り合わせのオーダーを通す。

「では、間違いありませんね?」

「はい。ありがとうございます。」

丸いメガネの少年がペコペコと頭を下げながら、静かにしろ、と銀髪の男をなだめすかしている。

「間違いないですね?」

明らかに、三人で食べるには量が多すぎるので、再度確認をすると、銀髪からヤジを飛ばされた。

「間違い間違いウルッセーよ!最近流行りのなんちゃらbotですかコノヤロー!」

「いや、銀さん仕方ないですよ。普段来ないところですもん、まあまあな量注文したんですよ、僕たち。」

優しいメガネ君に助けられながら、ありがとうございましたと頭を下げて席を立つ。

地獄の始まりはそこからだった。
キャベツを持っていくと、ドリンクと枝豆の全皿追加、キャベツのお代わりを持っていくと、次の料理が出来上がっており、そのテーブルへと持っていく。
ドリンクのお代わりとキャベツのおかわりを持っていき、さらに次の料理を持っていく。
やっと途切れたかと錯覚した頃、ピンポーンとそのテーブルからの呼び出し。あいにく誰も空いておらず、私が行くことに。
キャベツのおかわりを依頼され、持っていく。
キッチン前に戻ると、新しい料理が出来上がっている。
結果私は丸二時間、この席を離れる事はなかった。
いや、言い直そう。
その二時間で店の仕込みがすべて切れたので店閉めとあいなったのだ。

「あの、僕ら、本当にすみません。いっぱい食べちゃって、」

なんて頭に手をやる少年を見ながら、

「いえ、たくさん、ありがとうございました。」

なんて、一ミリも思ってもいないことに笑顔を乗せる。

「いや、絶対思ってないよこの人」

「新八が童貞臭いのに我慢出来ないからヨ。速く店出ろよチェリー」

「おーおー。今日の報酬ほぼ全部じゃねぇかコノヤロー。どうすんですかー、明日からァ」

やんややんやとまたレジ前でまごつく彼らにはさっさとお帰り頂いて、大量にある洗い物を従業員一同、心を込めて洗わせて頂いたのだった。
そんなこんなで、家に帰る頃には筋肉痛なのか、浮腫なのか、何せ爆発しそうな勢いの足を引きずり帰った次第だったのである。

クタクタの体をむち打ちながら、シャワーで何せ足を揉みほぐしたのだった。



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