欲に忠実であれ
「とんでもないモンを拾って来たもんだな」
「言うな馬鹿野郎……」
文次郎はがっくりとうなだれてため息をついた。
とんでもないもの、とは捨て猫の事である。学園前に放置されたその猫を文次郎が抱きかかえた時から猫は彼に懐き、依然として文次郎にくっついている。
そして文次郎が何故うなだれているかと言えば。
「触った瞬間に半猫化するなんて思わねぇだろうが!」
大声を出した文次郎の頭には猫の耳が、尻には尻尾が生えていた。いつもは鬼の会計委員長と恐れられている彼も、こうなってしまえば威厳も何もあったものではない。
かくして、ひょんな事から厄介な状況に陥った文次郎だが、その隣には犠牲者がもう一人。
「あーもー、うるさい。耳が二つになってんだから、静かにしろよ」
留三郎は文次郎の隣で不機嫌そうにそう吐き捨てた。彼も例外ではなく半猫化してしまったのである。
しかし、いつも犬猿の仲で喧嘩ばかりの彼等も、この時ばかりは力を合わせてこの状況を打開する策を練る他なかった。
文次郎は恐らく元凶であろう捨て猫を自分の身体から無理矢理引っぺがした。けれど直後捨て猫が悲しそうに鳴いたものだから、可哀相になって渋々自分の膝に抱え込んだ。その様子が仏頂面の彼に似合わず、笑いを堪えきれなくなった留三郎が声を上げて笑った。
「似合わねー!」
「うっさいわバカタレ!」
文次郎が怒鳴った後留三郎はまたひとしきり笑った。
そして目に涙を溜めてはあ、とため息をつくと、文次郎の耳にキスをした。ただ単に文次郎が少し可愛く思えた故にした行動なのに、文次郎に「盛ってんのか」と吐き捨てられて留三郎はむっとした。そして今度は悪戯っぽい笑みを浮かべて言う。
「まあいいじゃねぇか。猫耳プレイは嫌いか?」
はっ、と呆れたように鼻で笑った文次郎も不敵な笑みを浮かべ、留三郎にキスをした。
「そういうプレイすんなら、本格的にやれよ? 発情猫」
数分後、まるで猫みたいに鳴いた留三郎に煽られて自分も発情してしまう事を覚悟して、文次郎は苦笑した。
拍手お礼文でした