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共に味わいましょう


 心地良い場所は今なお変わらず存在する。
 ただ一度だけ手放した。けれど誰にも譲りたくはない。

「達海、痩せた?」
「そーかもー」

 ベッドに座って壁にもたれている後藤の膝の上に乗って、ポテトチップスを食べながら投げやりに答えた。そうして後藤をまるで座椅子のように扱っている。少し後ろに移動して後藤の胸にもたれ掛かった。
 耳に後藤のため息がかかった。それから頭をくしゃりと撫でられる。それだけで口許が笑う。

「後藤も食べる?」
「いらないよ」

 せっかくあげようと思ったのに、と口を尖らせて、笑った口許をごまかした。顔が見えないからばれていないみたいだとほっと息をつくと、肩口に後藤の額が当てられる。そして片腕は、身体に巻き付く。
 頭と、背中と、足と、肩と、後藤と触れている全ての部分で人肌を感じる。一人では絶対に味わえない熱を噛み締めるようにして、ぎゅっと目をつぶった。

「達海、あったかい」

 後藤は感極まったような声でそう言った。後藤に触れていない指先まで温かくなった気がした。
 目を開いて、腹に当てられた後藤の手に自分の手を重ねた。それだけで満足してしまいそうになる。
 意外にも自分は貪欲で現金なのかと思ったが、後藤がそういう風にさせたのかと一人納得し自分を嘲笑った。
 後藤はいつだって甘いんだ。

「俺、後藤の為に何が出来るんだろうね」
「いるだけでいいよ」
「言うと思った」

 こういう事を言うと付け上がるとか、後藤はこれっぽっちも考えていないのだろうか。いや、自分が慣れていないだけか。
 頭の上に置かれて動きを止めていた後藤の手が再び頭を撫でる。本当は嬉しいのに、その一言が出ない。感情をありのままに伝える事を、後藤と離れていた十年が邪魔していた。本当によく言ったものだ、大切なものの価値は手放してから気付くと。
 一度離れた身で、また同じような関係を築けると自惚れる程馬鹿じゃない。しかし今こうして後藤と一緒にいられる事は紛れも無い現実だ。実感が湧かなくて、日本に帰って来て間もない頃は見えなかったもの、感じなかったもの。

「後藤、俺って幸せだよね」
「え?」
「後藤と一緒にサッカー出来るから」

 振り向いて、顔を上げた後藤に笑いかけた。訳も分からずきょとんとしている後藤が可愛い。
 ベッドに片手を付いて腰を上げる。ぱりぱりと袋の中でポテトチップスが潰れる音が聞こえたけれど気にしなかった。くるりと身体ごと後藤に向き直って、首の後ろに手を回してキスをした。途端に後藤の首が熱くなるのがわかった。
 唇を離してにひひと笑うと、後藤もつられて笑った。照れ隠しだとわかっていたけれど、あえて茶化さずに後藤からのキスを待った。さっきより少しだけ深く唇が重なる。
 やっぱり自分だって後藤に甘いんだ。

「……しょっぱい」

 甘いだけじゃない方が楽しいのにね、恋も人生も。


拍手お礼文でした

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