王様の7番
「俺は謝るつもりなんてねぇよ」
今までETUを守ってくれてありがとう、とも言わねぇ。
口を尖らせて、いつものように上からものを言う達海を殴りたいと思ったのはこれで何度目だろうか、と村越は拳を握り締めた。憎たらしい言葉に上乗せするような軽い態度がまた頭にくる。
達海が出て行ってからは、ひたすらに彼を恨み続けた。恨む事で戸惑いを紛らわせた。達海がいなくたって一年が経てば、たまに彼を思い出しては物思いに耽った。達海に再会してからは、また彼を恨んだ。
全てに共通している感情は、後悔だけだ。
「あんたみたいな奴からの謝罪なんて、かえって頭に来るだけだ。そんなものいらん」
「まあ、そうだろうねー」
何が楽しいのか呑気に笑っている達海は頭の後ろで手を組んだ。村越にくるりと背を向ける。
いつの間にかその背中から消えた七番。遠ざかるどころか、もう二度と届かない七番。
背筋を伸ばしてピッチに立つ、達海が好きだった。
「村越ぃ」
顔だけを村越の方に向けた、現役選手ではない達海の顔が、村越には直視出来なかった。
「あの時なら、してやれた事もあっただろうに。お前がもたもたしてっから、もう無理んなっちまったなー」
好きだって言えば、別れの挨拶くらいしてやったのに。
「……自惚れるのも、大概にしろ」
そう言って達海の背中を目に焼き付けてから、村越は足早にその場を去って行った。