memo | ナノ

からす


「なあ長次、お前は何を考える?」
 
 夜が沈む前、青空の面影を僅かに残した青がじわじわと明かりを無くす様は、まるで高台から森を見下ろした時のような不気味なざわめきを感じさせる。
 尋ねた彼の髪の色もそれと同じようだった。乱雑で艶のない髪も、彼だけは意に介さないようだった。
 手入れをしない彼の代わりに、半ば無理矢理その髪に櫛を通してやった事を思い出す。その度痛いと喚いた彼を宥めるのも面倒になる位、風呂上がりの後の習慣になる位、毎日のように櫛を通してやったなあと。
 
(何を考えるか、なんて)
 
 決まっている。お前の事だ。
 お前は私がどんな思いでいるのか何も知らないだろうし、私も自分の中の醜い部分であるそれを知って欲しいとも思わない。お前は何も知らなくていい。
 ふとした時に浮かぶそれは、ある種の執着であり、小平太を庇護する為の最大の盾でもあった。
 ここからは勝手な事だけれど。長次は、自分の中に要らぬ希望や信条を植え付けて去っていく小平太が少し憎いとさえ思う。けれどそれに生かされているのだと思うと、やはり彼を失ってはいけないのだとも思う。
 ひとつ、ふたつ、みっつ。戦場に浮かぶ鈍い光を数える。
 
「……私達は、忍者だ。私はそれを誇りに思う」
「そうだな、ああ、そうだ」

 自らが発した言葉は、なぜか自信に満ち溢れていた。小平太はそれにただ頷く。
 この心の深い所にある、おそらく「依存」や「執着」と呼ばれるであろうもの。どれほど偽っても、希望の光とは言えないけれど、先刻数えたあの光くらいには、明るいものになるだろうかと。
 きっと今もこれからも、剥がれない黒い羽を心に蓄積するような気持ちで、生きている。

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