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人は口を揃えて彼を「暴君だ」「獣だ」と言うが、実際はそうでもない。確かにやんちゃ程度では済まない奴だけれど。
「長次、私は忍者になりたいと心から思っている」
お互い自分布団に入ったまま、顔を見合わせて話をする。大概小平太が話しながら寝てしまうが、夜の小平太の話は静かで好きだ。真っ暗で彼には見えていないだろうが、無意識に自分が微笑ましそうに小平太を見ていることに気付く。
見えていないけれど、小さく頷けば小平太はまた話を続ける。
「戦う事は好きだ。走る事も、塹壕を掘る事も。私はここを卒業したら、プロ忍者になるんだ」
小平太の言葉は嘘がなく、自信に満ち溢れていて好きだ。力強さが感じられる。
彼が「なる」と言えば絶対に「なる」のだ。予言ではなく、有言実行者なのだ。だからこその力が言葉に備わっている。
お前ならなれる、とは言わなかった。言おうとしたけれどやめた。小平太が私の布団を掴んで丸くなる。
「でもな、私はお前と離れたくないよ」
弱気な言葉でさえ、小平太が言うと力強いものに聞こえるのだから不思議だ。
ああ、私もだ。その言葉は飲み込んだ。小平太の言葉をただ待った。
見えないけれど、お前は今凄く穏やかな表情で私を見ているんだろう。
寂しい、とは言わない。本当に離れたくなくなってしまうから。
でも今、きっとお前と同じ事を思っているよ。
「お前がいないとつまらないよ」