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メートリアル


※田島のみ


 明日は花井と、電車乗って出かけるんだ。

「風呂上がったよ〜!」

 最近練習で休みがなくて、オレも花井も結構疲れてて。ミーティングが終わってからちょっと話す事くらいしかしなかったから、何か物足りない感じがしてた。恋人らしい事もしたかったけどやっぱり疲れには敵わない。家に帰ればメールを送る事もなく寝てしまっていた。
 だから花井が「明日練習休みだし、どっか行くか」なんて言った時は、オレはもう跳び上がって喜んだ。
 花井と居られる、それだけでオレはもうこの上ないくらい幸せなんだけど、何より花井から言ってくれた事が嬉しかった。いつもはオレが一方的に約束を取り付けてる感じで、でも花井もオレと居られるのが嬉しかったみたいだからそれで満足してたけど。でもやっぱり、好きなやつから一度くらいは誘われてみたい。
 花井は結構世間体とか気にするから――男と付き合ってる時点で世間体もクソもないけど――二人じゃない時にくっついたりすると怒る。単に恥ずかしがってるだけってのもあるけど、何か人前でそういう事するのが嫌らしい。二人の時でも、花井からぎゅーってされた事はあまりない。だからいつもオレばっか、好きって気持ち持て余してた気がしてたけど。花井もオレと居たいって思ってくれてるんだ、って嬉しくなった。
 明日、すげえ楽しみだ。

「おかーさん! 明日花井と出かけてくんね!」
「そういえば練習お休みだったわね。まあ花井くんが一緒なら心配ないわ」

 キャプテンだもんね、とおかーさんは笑った。色んな所で評価されている花井を凄いと思いながらも、自分が褒められた時のように嬉しくもあり、得意げに頷いた。花井は本当にキャプテンに向いてると思うから、それを認められればオレも嬉しくなった。
 喜びを抑え切れずに、オレはずっとにこにこしていた。自分の部屋に入ると溢れんばかりの嬉しさをぶつけるように、勢いよくベッドに飛び込んだ。暑さでほてった身体に当たる、少し冷たい布団が心地良い。足をばたばたしていると、ポケットの中の携帯が音を立てた。
 直ぐさま携帯のフリップを開くと名前が見えた。送信者、花井梓。名前を見ただけで嬉しさが込み上げる。メールの本文は、「明日9時に駅前東口集合だかんな。おやすみ。」という簡潔な文章だった。律儀に約束の確認をする所がいかにも花井らしくて笑えた。味気ない文章でも、それが花井のものだと思えば、どんなものでも特別だ。オレだけの為に送られたものであるには違いない。女々しいと少し呆れつつも、花井のメールを見ていれば浮かれた気分になった。
 明日がどうしようもなく楽しみで、この幸せな気持ちを花井にも教えてやりたいと思った。携帯を両手で持ち、ベッドに横たわったままメールを作成する。「わかった! オレ明日が超楽しみ! おやすみ!」と純粋に今の気持ちを込め、メールを送信した。

「ふひっ!」

 思わず三橋と同じような声が出て、一人でおかしくなった。この声はどうも力が抜ける。
 三橋は阿部と付き合ってて、お互い好き合っているのがバレバレだ。恋人同士になってもまだ阿部は三橋を怒鳴り付けて、三橋はそれにびくびくして、っていうスタンスは変わらない。でもたまに見える二人の幸せそうな笑顔を、何処か羨ましく思っていた。
 だって、花井はちゃんとオレの事好きなのかなって、不安になる時があったから。
 でも今なら、花井から出かけようと誘ってくれた今なら、そんな不安をものともせず、ただ笑っていられると思う。花井も明日を待ちわびているのだろうか、胸を躍らせているのだろうか。堕ちたもんだなと自覚して、深い深い期待と不安に満ちた暗闇の中に、身を委ねた。

「おやすみ……」

 明日は花井と、電車乗って出かけるんだ。


出かける前に力尽きました
わたしが

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