分かち合うほど素晴らしい
甘えたいと言えば簡単に甘えさせてくれる彼はやっぱり大人だと思ったけれど、何も言わなかった。しかしどうしてボクなんかと一緒にいてくれるのだろう、と何度も思った事を口に出す勇気はまだ足りないらしい。
嬉しいのにこんな事を思う自分は罰当たりだろうか。いや、本当は知っている、ただ彼に甘えているだけなのだ。
「子津くん、眠いんですか?」
違うけれど、そういう事にしておこうか。
彼に抱きしめてほしいと言えば、彼はきっとボクの言う通りにしてくれるんだと思う。けれどそれが申し訳ない。何でボクなんかの為にと尋ねても多分、彼はボクを咎めはしない。それがわかっている時点で、甘えている。
「子津くん?」
彼が首だけ動かしてボクを見た。ボクの頭はまだ彼の肩に預けたままだ。
何も言わないで目を見ていた。
要らない事を考える時間が増えた。それはボクのわがままで、でもボク自身では答えを出せない事だった。ただ、きっかけが無かった。
理由なしに離れる勇気が、ボクにはない。
「明日も、一緒っすか」
「それは……勿論」
小さな子供をあやすように握ってくれた右手が、じわりと熱くなった。掌から腕へ伝染していく。じっと右手を見ていたボクを見て、彼はまた笑った。
不安になる要素など何処にもありはしないのだ、きっと。
そう思うとまた、余計な事を考えた。
「ボクはいつまで、君が好きだろう」
「え?」
言い方が悪かったなと思ったけれど、訂正はしなかった。彼は本当に驚いた声を上げたけれど、やっぱりその中に落ち着きが残っていて、それがどうにも少し気に入らなかった。
「……子津くん、まだ私たちは一緒にいられますよ」
そうか、と素直に頷くと彼もまた頷いた。
やむを得ない事情で一緒にいられなくなっても、きっと最後まで君が好きだろう、ボクは。そのあともきっと忘れられないと思う。彼と過ごしてまだ一年も経っていないけれど、そう思う。
悔しいな、ボクの方が恋焦がれているようだ。
「辰羅川くん」
一度だけ名を呼んで目を閉じた。彼のおやすみなさいという声が聞こえた気がした。
目を閉じたまま腕を伸ばした。届くだろうか。
「……、」
夢の中で、彼に答えよう。