ゆるかしく
「なあ、達海さん」
後ろを振り向いて達海を呼ぶと物凄く不機嫌そうな顔をされた。口はいつもよりも尖っていて、子供っぽい。怒っているのかただ機嫌が悪いのかわからないけれど、その表情がいつもの監督のそれではなくて、自分にしか見せない表情なのだと嬉しくなり緑川は笑った。
すかさず、何笑ってんだよ、と背中を叩かれる。それがまた痛くない程度に加減されているものだからほほえましい。
「なードリ、一回下の名前呼んでみてよ」
そう言って今度は頭をくしゃくしゃと撫でられた。達海を撫でる事は好きだが、達海に撫でられる事はあまり好きじゃない。
何せ緑川ももう33歳なのだから、画的にもどうかと思う。それを言ってしまえば達海は35歳なのだからもっと不自然な筈なのだが、この人は見た目が若いからいいんだ、と緑川は勝手に納得した。そうして達海の手を掴んで、今度は緑川が達海の頭を撫でる。
「猛さん。これでいいですか?」
「気持ち込めてよ」
これ以上どう気持ちを込めろと言うのか。
「宏くん。こんな感じで」
「あんたも大して変わらないだろう」
達海の呼び方はまるで棒読みだったけれど、それでも名前を呼んでくれた事が嬉しくて、緑川は不覚にも顔が緩んだ。
「これ以上どうしろと」
口角上がるのを隠しながら、緑川はため息をついた。いつも余裕ぶっている緑川でもやはり達海の名前を呼ぶとなると少し緊張してしまう。だから思った以上に大事に大事に名前を呼んだというのに。
「猛さん」
「にひー、ドリかっこいい」
でも嬉しそうに笑う達海が見られるなら、たまには名前で呼ぶのも良いものだと、緑川は達海に笑い返した。
グッダグダな出来