かげぼうし君の観察日記
「渡良瀬、紙がなくなった」
「そうっすか。じゃあ買いに行きましょーね」
「………………」
「はよ行けよ、みーくん」
「……渡良瀬のアホ童貞!!!」
みーくん、とは僕のことである。渡良瀬曰く、「ちょっとは自分を推していけ。ミー(me)ってな」とドヤ顔でつけたあだ名だ。
渡良瀬のバカバカバカ!そんなので親友っぽくされても嬉しくないんだからね!!ちょっと頬が緩んでいるのはアレだ、アレ!
誰かに言い訳するように、脳内論争を巻き起こしていた僕は、目の前に迫り来る人影に気づかなかった。
暗転。転んで強打した尻が痛い。泣きそう。涙目になりながらようやく起き上がれば、御子柴君がいた。え、あ、みこしば、くん…?!?!
うわあああああどうしようどうしよう!!!水泳部のキャプテンである御子柴君を怪我させたーーーー!!!!
「いててて……。おい、大丈夫か?悪かっ、」
「どどどどうしよううう御子柴君に、御子柴君をををを!!!!」
「とりあえず落ち着けって!」
「あ……」
ぽふ、と御子柴君の逞しくて節々が出ている手が!!!僕のキノコが生えそうなくらいジメジメと暗い汚ならしい頭の上に乗っている!!!!!
「やっと落ち着いたか……。怪我はないか?」
心配そうにさりげなく僕の苗字を呼んでくれた。みみみ御子柴君……!
「や、あの……すみません!御子柴君にぶつかっちゃって…ああっ!怪我とかありませんよね?大丈夫ですか!?」
「……………………」
「み、御子柴君…?」
どうしようどうしよう!御子柴君が顔を伏せて肩を震えさせている。これは絶対怒りによる震えだ。
僕は戦(おのの)いた。これ以上、関係を悪化させたくなかったから。僕はただ御子柴君を見ているだけでいいのだ。
「ぷっ、あははは!!やっぱり面白いな、お前!」
「え…?」
「そんな他人行儀になるなよ。一年の時も一緒だったんだからな」
「う、うん…」
「くくっ、ダメだ…さっきのが面白すぎる……!」
御子柴君の笑った顔が間近で見られてよかったなあと、僕はぼんやりとした頭でそう思った。
4月○日 (火) 晴れ
記録なし
「あれ、今日は日記書かないのか」
「渡良瀬……僕は今日という日を忘れないと思う」
「無視かよ。そんなに紙が切れたのがショックだったんか」
「ちっがーう!!渡良瀬のアホ!」
つづく
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