眠たそうに歩く少年――奥村燐は、中庭を歩いていた。何故彼がこんな人気のない場所に居るか、それは授業をサボって眠るためだった。

双子の弟――奥村雪男に見つかれば、大変な目に遭うとそれまでの経験から学習したので、燐は人気のない場所を探していた。


(ここら辺なら良さそうだな……)


彼が一歩踏み出した時、ふにゅ、と何か地面より柔らかい感触があった。


「うわあああ!?」


慌てて下を見るとすらっとした雪のように青白い足があり、急いで足を退けた。

右を見ると木があり、それに凭(もた)れかかって顔をしかめる少年が居た。


「ご、ごめん!まさかこんなところに人がいたなんて…!」

「僕の脚になんてこと、を…?」


燐の顔を見た少年は丸眼鏡の向こうにある目を大きく見開き、突然立ち上がった。その異様さに燐は身体を後ろに退かせた。


「あっ、あの、恐縮ですが……お名前を…」

「俺は奥村燐だけど…?」


それを聞くとまた少年は目を大きく見開いた。すると顔をほころばせ、にこにこと微笑んだ。


「素敵な御名前ですね」

「お、おう…ありがとな。それより脚、大丈夫か?」

「大丈夫です。ご心配をかけ…」

「いやいや俺の方が悪いって!」


慌ててフォローをする燐に少年はくすりと悲しそうに笑った。彼の脚に異常が無いか診ていた彼は、それに気づかなかっただろう。


「ほんとゴメン!!俺が下を見てなかったから……」

「そんな!僕ごときに気を遣わないでください」

「ゴメン…あ、詫びに何か作ってやるよ!俺、料理得意だし」


ニコッと燐が笑うと、眩しそうに少年もぎこちなく笑った。しかし、燐の提案に彼は大きく首を振った。


「そ、そんな!滅相もございません…!僕なんかに……」

「いいんだって!こうでもしなきゃ、俺の気が晴れないっていうかさ……」

「でも……」


まだ彼は躊躇しているようだ。目を伏せ、頬に右手を当てている。燐はぽりぽりと頬をかき口を開く。

「……もしかして俺の料理のレベル、疑ってる?」

「いえいえ!そんなことありません!ただ……」

「ただ?」

「僕のような下等生物が……うぅ、その…」

「嫌いな食べ物、ある?」

「え?」


ずいっと顔を近づける燐に少年は顔を少し赤らめて身を退く。質問の内容を理解した彼は「ありません…」と小さく答える。


「よし!じゃ俺が起きるまでには決めとけよー」

「え、え!?」


ごろんと木の下に寝転がる燐を見て驚き、目を点にする少年。やがて寝息をたてる燐の横に座り、彼の頭を撫でる。


「早く、気づいてください」


その顔には慈愛と怒りの色が複雑に混ざっていた。
 

秘密の花園

奥村燐

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