はちかけ! | ナノ



モルジアナとアリババは、シンドバットに呼び出された。璃里はまだ全快とは言えない状態なので、寝台で安静に過ごすように、とジャーファルにきつく言われていた。

しかし、どうしても気になった璃里はこっそりと左手で丸を作り、それを扉にあて聞き耳を立てた。


(盗み聞きじゃない…これは盗み聞きじゃないんだ…!)


コソコソしていると、不意に口を塞がれた。驚いて振り返ると、そこにはマスルールが居た。


「ま、マスルールさん…」

「……ジャーファルさんに怒られるぞ」

「う、でも、しかし……気になってしまいまして……」


璃里が必死に弁明するが、マスルールは知らぬふりして彼を軽々と担いだ。まるで米俵のように運ばれている。なんとなく恥ずかしい。


「マスルールさんっ!降ろしてください〜!」

「……もっと大切にしろ」

「えっ…?」


身を捩り、マスルールの表情を窺おうとするが、全く見えない。


「突っ走ってもいい。秘密を隠していてもいい。ただ……自分の命を大切にしろ」

「……は、い」


寡黙であまり璃里と言葉を交わさないマスルールが、自分のことを言ってくれている。
そして暗に心配していることを伝えていると気づき、璃里の心は温かくなった。


「マスルールさん…。このこと、ジャーファルさんには内密で、」
「断る」

「ええ!?そんなあ!」

「お前のためだ」


ジャーファルの説教を思い出し、ぶるぶる震える璃里にマスルールは口元を緩めた。全く、まだまだ子供だ。

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