1 モルジアナとアリババは、シンドバットに呼び出された。璃里はまだ全快とは言えない状態なので、寝台で安静に過ごすように、とジャーファルにきつく言われていた。 しかし、どうしても気になった璃里はこっそりと左手で丸を作り、それを扉にあて聞き耳を立てた。 (盗み聞きじゃない…これは盗み聞きじゃないんだ…!) コソコソしていると、不意に口を塞がれた。驚いて振り返ると、そこにはマスルールが居た。 「ま、マスルールさん…」 「……ジャーファルさんに怒られるぞ」 「う、でも、しかし……気になってしまいまして……」 璃里が必死に弁明するが、マスルールは知らぬふりして彼を軽々と担いだ。まるで米俵のように運ばれている。なんとなく恥ずかしい。 「マスルールさんっ!降ろしてください〜!」 「……もっと大切にしろ」 「えっ…?」 身を捩り、マスルールの表情を窺おうとするが、全く見えない。 「突っ走ってもいい。秘密を隠していてもいい。ただ……自分の命を大切にしろ」 「……は、い」 寡黙であまり璃里と言葉を交わさないマスルールが、自分のことを言ってくれている。 そして暗に心配していることを伝えていると気づき、璃里の心は温かくなった。 「マスルールさん…。このこと、ジャーファルさんには内密で、」 「断る」 「ええ!?そんなあ!」 「お前のためだ」 ジャーファルの説教を思い出し、ぶるぶる震える璃里にマスルールは口元を緩めた。全く、まだまだ子供だ。 prev / next |