27 璃里が大きく伸びをし、あくびをした。 「まあ、お前もせいぜい頑張るんだな…。ふわああ、ねみい。“帰る”か」 「“帰る”?」 どうやって“帰る”のか気になった夏黄文は、じっと璃里の動きを見ていた。 なんと、彼は持っていた長い刀の先を口に入れたのだ。ぞわりと夏黄文は全身の鳥肌が立ったのを感じた。おぞましい、なんという奇妙な光景なのだろう……! 美しい少年がゆっくり静かに、しかし確実に刀を身体に入れていく。 全て飲み込んでしまうと、糸で操られていた人形のように、ぱたりと横に倒れた。小さく胸が上下に動いているのは、呼吸をしている証拠だ。 (このまま、殺してしまおうか……) 夏黄文がゆらりと璃里の前に立ち、杖を握る。 「皆の者!帰るわよ!!」 「え?しかし姫君…」 「いいから帰るのよ!いいこと?別にあんたに言われて帰るわけじゃないんだからね!!」 慌てて紅玉の方に向かい、璃里へちらりと目を遣る。そこには月光に照らされ、ただ美しき少年が横たわっているだけだった。 「姫君…あの璃里皇子には、手を出してはいけませぬぞ……!」 「な、なあに?変な夏黄文ね」紅玉は首を傾げながらも、彼の気迫に圧され頷いておいた。それよりも彼女の頭を占めているのは、シンドバットのことだった。 (手を……握られちゃった) (あの赤い瞳とは、もう会いたくない) prev / next |