26 そして妖刀は、まるで仕事の愚痴をこぼす同僚の様に喋り始めた。本来は、お喋りな奴なのかもしれないと夏黄文は考えていた。 「璃里坊っちゃんはよぉ、強くなりたい、なりたいっつってんのに、俺を使わないわけ。ワガママ過ぎんだろぉ?」 「…はぁ」 「ここは俺と璃里の我慢くらべっつーか。まあ、コイツが俺を使う度、俺はココをどんどん支配していく」 ココ、とトントンと胸を叩く。最終的には、妖刀が璃里に“なる”と言った。それがよほど楽しみなのか、璃里の表情を恍惚の笑みにさせ、うっとりと白魚のような指先を眺める。 「一つ、質問をしてもよろしいでしょうか」 「なんだ?」 「妖刀の貴方は…璃里皇子の身体から出ると、どうなってしまうのでしょうか?」 「消滅する。だから、俺はこいつを手放せない。こいつも、俺を手放せない。強くなりたいから。あー、あと、璃里は母親殺しじゃねぇからな」 「じゃ、じゃあ、誰が…?」 「……秘密」 唇に人差し指をあて、ニヤリと笑う璃里。その姿に自分はこの人(?)に振り回されっぱなしだと思い、ため息を吐いた。 「ところで…こんなに重要なことを、煌帝国の関係者にべらべらと喋っていいのですか?」 意趣返しと言わんばかりに、今度は夏黄文が突く。すると、璃里は目を丸くし、フッと笑った。 「お前にか?面白いことを言うなあ!もし、煌の王に告げ口したとしても、姫様の金魚のフン如きのお前の言い分が通用すると思ってんのか?なあ?」 「っ……!」 けらけら笑う璃里に、夏黄文の堪忍袋の緒が切れそうだった。だが夏黄文は忍耐強くそれを抑えた。 たとえ自分より強い姫様が刃向かっても、彼には到底勝てる気がしないからだ。 「ここでぶちギレたりしないところは、誉めてやるよ。ギリギリ及第点だな」 「…………」 もうこの男とは関わりたくない。出世のために様々な仕打ちに遭ってきたが、この男は同じ空間にいて欲しくない。正直なところ、涙目な夏黄文であった。 prev / next |