はちかけ! | ナノ



「ハ〜イ、そこのオニイサン、占いはしないかい?」

ところどころ訛ったような声に、ブーデルは足を止めた。目を遣れば、美しい女がこちらを見てニコニコと微笑んでいる。

ブーデルは何かに惹き付けられるかのように、その女の元へ行った。


「お、おう、お前は占い師なのか」

「そうなの!オニイサン、暗い顔してて何か悩んでいるのかなあって」


悩み事…。ああ、今、このチーシャンを支配しているジャミルとか、女房が冷たいとか、数えきれないほどの悩みが溢れ出した。


「今からね、オニイサンの悩み事を解決しちゃう♪」

「ほ、本当なのか!?」

「その代わり……」


美しい顔をした女は、蝶のようにブーデルを誘う。薄く赤い紅が引いてある唇が「お金が必要なの」と告げた。

ブーデルは、まるで壊れた人形のように何度も頷いた。それを見た女はにこりと笑った。


888



フラフラした足取りで帰って行く男を璃里は「またねー」と手をひらひら振った。ちょろいものだ。璃里は冷ややかな視線を哀れな男の背中に送った。

璃里は旅人だ。母親を探し、世界を渡り歩いていた。盗賊、奴隷、富裕層、貧民、色々なものを見てきた璃里は酸いも甘いも体験してきた。


「あーあ、嫌になるなあ。早く……見つけなきゃ」


母国語で呟いた独り言は誰にも理解できない。璃里はそれでいいと思った。この言葉遣いは、あの兄妹の前でしか必要じゃないから。


「それにしても、さっきの旦那、すごく重たい財布だ」


璃里はブーデルから受け取った『料金』を握り、にやりと笑った。彼は八卦という竹の棒を使った占いをする占い師。

しかし、さっきは占っていない。ブーデルに幻覚・幻聴を見せる香を焚いたのだ。これで彼は様々な苦難を乗り越えてきたと言っても過言ではない。

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