1 「ハ〜イ、そこのオニイサン、占いはしないかい?」 ところどころ訛ったような声に、ブーデルは足を止めた。目を遣れば、美しい女がこちらを見てニコニコと微笑んでいる。 ブーデルは何かに惹き付けられるかのように、その女の元へ行った。 「お、おう、お前は占い師なのか」 「そうなの!オニイサン、暗い顔してて何か悩んでいるのかなあって」 悩み事…。ああ、今、このチーシャンを支配しているジャミルとか、女房が冷たいとか、数えきれないほどの悩みが溢れ出した。 「今からね、オニイサンの悩み事を解決しちゃう♪」 「ほ、本当なのか!?」 「その代わり……」 美しい顔をした女は、蝶のようにブーデルを誘う。薄く赤い紅が引いてある唇が「お金が必要なの」と告げた。 ブーデルは、まるで壊れた人形のように何度も頷いた。それを見た女はにこりと笑った。 888 フラフラした足取りで帰って行く男を璃里は「またねー」と手をひらひら振った。ちょろいものだ。璃里は冷ややかな視線を哀れな男の背中に送った。 璃里は旅人だ。母親を探し、世界を渡り歩いていた。盗賊、奴隷、富裕層、貧民、色々なものを見てきた璃里は酸いも甘いも体験してきた。 「あーあ、嫌になるなあ。早く……見つけなきゃ」 母国語で呟いた独り言は誰にも理解できない。璃里はそれでいいと思った。この言葉遣いは、あの兄妹の前でしか必要じゃないから。 「それにしても、さっきの旦那、すごく重たい財布だ」 璃里はブーデルから受け取った『料金』を握り、にやりと笑った。彼は八卦という竹の棒を使った占いをする占い師。 しかし、さっきは占っていない。ブーデルに幻覚・幻聴を見せる香を焚いたのだ。これで彼は様々な苦難を乗り越えてきたと言っても過言ではない。 prev / next |