11 自分はもう人間じゃないのかもしれない。璃里は部屋の隅で膝を抱えていた。日は少しずつ傾き、格子が付いた窓から陽射しが差し込んでいた。 数時間前に遡る。璃里は人を殺した。罪人だけではなく、下っ端の二人まで。 「璃里、早く――」 「うるせえ。今から殺るから待っとけ」 「お前――!?」 ジャミルは自分の目を疑った。璃里が口から刃渡り四〇センチはありそうな刀を出したからだ。深い藍は燃えるような赤になり、口元は歪んだ笑みを浮かべていた。 「あっはっはっは!なんだよ、これでもう御仕舞い?ねえ!」 「素晴らしい…!こいつは使える!」 璃里は笑いながら、逃げる下っ端を捕まえて惨殺した。ジャミルは部屋の外から眺めていたので、被害には遇わなかったが、迫力は彼のところまで伝わってきた。 伝説の妖刀――マサムネ。それがまさか彼自身だったなんて。ジャミルはまた一歩、迷宮攻略が近づいたような気がした。 「璃里さん…?」 「…………………」 「どうしたんですか?あの…」 「きょう…さんにんころした」 「え…?璃里さん、どういう意味ですか…!?」 璃里は顔を伏せて、自分の膝を抱えていた。モルジアナは気づいてしまった。 この部屋に血生臭さがまだ残っているのだ。それでも彼女は、彼の腕に手を置いた。 「触らないで、くれ…!ワタシは…!ワタシはこの手で人を殺めてしまった!汚らわしい!」 「…嫌です。璃里さんは、綺麗な心を持っています。汚れてなんかいません」 ギュッとモルジアナは璃里の腕を握った。彼の肩は小刻みに震えていた。彼女は、多分返り血で乾いてしまった彼の黒髪を手ですく。 「そんなことない……。ああ、モルジアナちゃん…。キミだけは、人を殺さないで欲しい…!」 「っ、璃里さん」 「これはワタシの我が侭だが、キミの綺麗な手が、心が汚れるのは嫌だ。ワタシが…全て片付ける」 「そんな勝手なこと……言わないで下さい!璃里さんは苦しいのに、何故私を気遣うのですか!?もっと……自分を大切にしてください…!」 ここでようやく璃里は顔を上げ、モルジアナの目を見た。彼女の目からは大粒の涙が溢れていた。 モルジアナも彼の目を見た。涙でボヤけているが、優しく微笑んでいるのが分かった。 「モルジアナちゃん…。君は心優しい子だ。いつか、必ずここから救いだそう」 「その時は璃里さんも同じです」 「……っ、そうだね。一緒に、頑張ろう」 お互い涙で顔がぐちゃぐちゃなのを見て、二人は笑った。血生臭い部屋に二人の楽しげな笑い声が響いた。 そんな楽しい雰囲気は、いつもあの男が壊していくのだ。 prev / next |