10 モルジアナはそこまで聞いて、目を見開き口元を手で押さえた。璃里は申し訳なさそうに彼女の背中を優しく擦った。 「その後、自分のしでかした事の大きさに気づいて、国から逃げ出した。ワタシの兄上は、血眼になってワタシを探しているよ。彼はあんな義母でも好きだったからね……」 「璃里さん……」 「ワタシは人間を殺した犯罪者さ…。妹はあまり気にしていなかったけどね」 モルジアナは何も言えなかった。ただただ、背中から伝わる手のひらの温かさを感じていただけだった。 888 翌朝、モルジアナは何処かに連れて行かれた。璃里は部屋で待機し、支給された堅いパンと水を食べた。その不味さに顔をしかめたのであった。 「やあ、璃里。今から君を試そうと思っている」 「はい、分かりました」 「うん?昨日よりマシな態度じゃないか」 「そんなことありません」 ジャミルはふうんと声を漏らした。璃里はもう暴力はうんざりだと思い、この暴君の命令を素直に聞いておけばいいと拳を握り締めた。 「よし、まずは足枷を付けろ」 「っ、はい」 「付けたか?うん、やっぱりお前には似合うなあ」 「ありがとうございます」 野郎から褒められても嬉しくない。そう実感した璃里であった。そうこうしていたら、下っ端の者が手錠を付けた男を連れて来た。 「さあ、コイツを殺せ」 「えっ…?どういう意味ですか…?」 「分からないのか?この男を殺すのだ。コイツは罪人でな、悪質な手口で…………」 話が耳に入らなかった。人を殺す?また私は罪を重ねるのか?璃里は懐を探った。ない、香を入れた袋がない! 「――という訳だ。璃里、殺せ。でなければお前を殺す」 「っ!?」 両隣に居た下っ端が剣を璃里の喉元に近づける。殺されるのか?僕は嫌だ!私はまだ母さんを見つけていない!モルジアナちゃんの話もたくさん聞きたい! 思考がぐるぐる回る。どくん、と璃里の血が動いた。アイツだ。彼はすぐに分かった。ジャミルは「こーろーせ!こーろーせ!」とシュプレヒコールを上げている。 「妖刀……マサムネ…」 prev / next |