8 璃里は義母から虐待されていた。表面上…つまり父親や兄の前では、優しく厳しい母親のフリをしていた。彼も最初は騙されていたのだ。5歳になる、その時までは。 「お母様!見てください、僕が作りました!」 「まあ、なんて可愛らしい鶴ですこと」 「えへへ、あの、お母様に、って!」 璃里は義母――弥生へ紙で作った折り鶴を贈った。弥生はニコニコ笑いながら、彼の小さな手から受け取った。 「本当上手ですわ。見ていて……腸が煮えくり返るくらい」 「えっ…?お母、様……」 璃里が一生懸命折った鶴は、弥生の手のひらでぐしゃぐしゃに潰されていた。彼の目が涙で溢れそうになっていたが、弥生はその様子を見て更に笑った。 「なんて、愚かで可哀想な子なんでしょう!私はずっとずっとずっと!お前が憎くて堪らなかった!」 「どうして……僕の…!」 「どうしてかって?あんたが嫌いだからよ!!あの馬鹿は変な女を孕ませやがって!私の可愛い可愛い瑠璃がいるっていうのに!!あり得ないわ!!」 「お母様……」 璃里は信じられなかった。今まで優しく接してきてくれた義母が、まさかこんな風に思ってたなんて。彼の青白くなった頬に、一筋の涙が流れた。 そんな璃里は義母からの虐待を受けながらも、すくすくと成長していった。剣術も勉強も必死にこなしていた。 義母からの“躾”の一環として、暗く何もない小屋に閉じ込められることがあった。 それが後遺症となって、モルジアナが見たような状態になってしまい、今も彼を苦しめ続けている。 しかし、彼がここまで生きてこられたのは、実の母親と彼女の存在大きかったせいかもしれない。 「お兄様!はい、お水をどうぞ」 「ありがとう、由璃。おや、また夜更かしをしているの?」 「だって書物が面白いんですもの!これが一番凄いですよ」 由璃が見せたのは、妖刀マサムネを書いた書物。その刀は血を吸っているかのように赤い光を放つという、曰く付きの刀であった。璃里はそれを見て顔をしかめた。 「由璃、君は女の子なんだからおままごと遊びとか――」 「嫌!お兄様と剣術を習った方が断然いいです」 「もう……あまり顔に傷を作って欲しくないんだ」 「……お兄様はやっぱりかっこいいな」 「ん?何か言った?」 「いえ、何もございませんよ」 由璃は璃里を異常に慕っていた。兄妹愛を越えているくらい。更に、彼女もまた弥生に虐待をされていたので、彼と彼女の間は強い絆で結ばれていたのだ。 そう、あの時までは。 prev / next |