はちかけ! | ナノ



璃里は義母から虐待されていた。表面上…つまり父親や兄の前では、優しく厳しい母親のフリをしていた。彼も最初は騙されていたのだ。5歳になる、その時までは。


「お母様!見てください、僕が作りました!」

「まあ、なんて可愛らしい鶴ですこと」

「えへへ、あの、お母様に、って!」


璃里は義母――弥生へ紙で作った折り鶴を贈った。弥生はニコニコ笑いながら、彼の小さな手から受け取った。


「本当上手ですわ。見ていて……腸が煮えくり返るくらい」

「えっ…?お母、様……」


璃里が一生懸命折った鶴は、弥生の手のひらでぐしゃぐしゃに潰されていた。彼の目が涙で溢れそうになっていたが、弥生はその様子を見て更に笑った。


「なんて、愚かで可哀想な子なんでしょう!私はずっとずっとずっと!お前が憎くて堪らなかった!」

「どうして……僕の…!」

「どうしてかって?あんたが嫌いだからよ!!あの馬鹿は変な女を孕ませやがって!私の可愛い可愛い瑠璃がいるっていうのに!!あり得ないわ!!」

「お母様……」


璃里は信じられなかった。今まで優しく接してきてくれた義母が、まさかこんな風に思ってたなんて。彼の青白くなった頬に、一筋の涙が流れた。

そんな璃里は義母からの虐待を受けながらも、すくすくと成長していった。剣術も勉強も必死にこなしていた。

義母からの“躾”の一環として、暗く何もない小屋に閉じ込められることがあった。

それが後遺症となって、モルジアナが見たような状態になってしまい、今も彼を苦しめ続けている。

しかし、彼がここまで生きてこられたのは、実の母親と彼女の存在大きかったせいかもしれない。


「お兄様!はい、お水をどうぞ」

「ありがとう、由璃。おや、また夜更かしをしているの?」

「だって書物が面白いんですもの!これが一番凄いですよ」


由璃が見せたのは、妖刀マサムネを書いた書物。その刀は血を吸っているかのように赤い光を放つという、曰く付きの刀であった。璃里はそれを見て顔をしかめた。


「由璃、君は女の子なんだからおままごと遊びとか――」
「嫌!お兄様と剣術を習った方が断然いいです」

「もう……あまり顔に傷を作って欲しくないんだ」

「……お兄様はやっぱりかっこいいな」

「ん?何か言った?」

「いえ、何もございませんよ」


由璃は璃里を異常に慕っていた。兄妹愛を越えているくらい。更に、彼女もまた弥生に虐待をされていたので、彼と彼女の間は強い絆で結ばれていたのだ。

そう、あの時までは。

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