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あつい夏の日のこと

あつくてあつくて、俺は名前に水を求めたけれど、彼は淡く微笑むだけで何も言わなかった。
どうして、と彼を見上げると、また微笑むだけで何も言ってくれない。
喉が渇いて、張り付いて声も出せない。出てくるのは不明瞭な音と吐息だけ。
名前、俺に、早く水を、
はくはくと息が荒くなってきて、俺は、内から沸き上がる怒りや衝動が抑えきれなくなった。
どうして、どうして、くれないんだよ!!なぁ、教えてくれよ……俺は、なんで、こんなに、

「遙、」

名前が、やっと反応してくれた。よかった、よかったよかった。死んじゃったんじゃないかと思った。
眉を下げながら名前は、申し訳なさそうに口を開いた。

「あげ、られない」

は?何言ってる、んだ?あげられないって、どういうことだよ、なあ!

「ごめん、ごめんなさい……」

名前の瞳からぼたぼたと涙が落ちてくる。あ、水。俺は吸い寄せられるように、無我夢中で涙を舐める。しょっぱいけど、喉の渇きが無くなっていく。
名前は目を丸くして、目から涙を出すのを止めてしまった。ちょっと、あともう少し出してほしいんだけど。

「はる、か?何やってんの…!」
はやく名前、涙出して、ほら

戸惑う名前にいらいらして、思わず右頬を叩いてしまった。すると、叩かれた彼は目を丸くして、ぽつりとぽつりと涙を流した。
俺は嬉々としてその水滴を舐めあげる。今度は、しょっぱくなくて、甘かった。

「っ、ふ、ごめんなさい、ごめんなさい…」

ぐじゃぐじゃになった名前の顔を今度は力いっぱい殴ったら、痛くて痛くて、俺も涙が出てきた。

名前、名前…っ!

嗚呼、喉の渇きが更に増してしまった

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