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スウィート・コンフリクト

名前と凛は昔から気が合わない関係だった。ハルと凛は性格が違ってちょいちょいプチ対立みたいなことはしてたけど、名前となったら全然違う。

喧嘩をしたら第三者が仲直りさせなきゃいけなくなるし(その第三者は俺とハルなんだから大変なのだ)、お互い同じような性格なのだからタチが悪いし。

さて、今日は鮫柄水泳部との合同練習なんだけど、名前がいつもよりかっこいい髪型になっている。道行く女の子が振り返るくらいイケメンだ。

「おはよー真琴!」
「おはよ、名前。今日は寝癖がないね」
「あったりまえだ。凛が毎度毎度、突っかかってくるから、今日は努力してみた」
「それはえらい、えらい」
「へへー、もっと誉めろ!」
「……名前、もしかしてお前整髪料を使ったのか」

ハルが怖い顔をしてジッと凝視してきて、名前は青い顔をして後ずさる。訳を聞くと、「水に不純物を入れるな」だそうで。当然、名前は膨れっ面になって唇を尖らせて反論をする。

「なんで整髪料が不純物に入るんだよ。いいじゃんか別に」
「よくない」
「よくなくない!」
「二人ともそろそろ静かに…」
「「真琴うるさい」」

そう、凛に似ているせいかよくハルと名前も喧嘩をする。まあ名前は凛よりも、まだ頑固じゃないからすぐに折れるんだけど。
今回も同じように名前が「しゃあねえなあ」と呆れながら、今後は使わないということになった。

「あ、おはよー凛!」
「おは……あ?」
「あん?なんだよ凛」

凛が名前を凝視していた。それもガンを飛ばすようにして。二人とも派手な顔立ちだから何か怖いよ…。
まあいつものこと、なんだけど。後輩の似鳥君はもう手慣れたようにてきぱきと動いている。

「名前……お前今日、変だな」
「はいぃぃ!?俺が、変!?」
「なんつうか…気持ち悪ぃ」
「てめえ凛表出ろ!!!」
「ちょっと凛、名前……っ!」

慌てて仲裁に入るも、時既に遅し。完全に喧嘩モードに入ってしまった。それからは何かとつけて凛と名前は喧嘩をして、終いには天方先生の怒りが落ちるところだった。

そして練習も終わってバスに乗り込む時、一人足りないことに気づいた。

「あれ…名前、いない?」
「名前ちゃんならトイレに行ったよ?」
「……しょうがないか」

息を吐いて足をトイレの方へ運ぶ。すると案の定ちらりと青い裾が見えた。名前だ。
しかしよく耳をすますと、もう一人の声――凛の声が聞こえてきた。少し、荒々しい口調だけど。

「おい凛、離せよ。バスがきてんだ」
「……離さねえ」
「はあ?お前のわがままに付き合ってらんねえよ、おい!」
「…っふ……」

ぐす、と鼻をすする音が静かなトイレに響く。ああ凛が泣いちゃったのか。心で小さく溜め息を吐いた。

「泣いてもわかんねえ。ちゃんと言え」
「…っ、だって名前が…」
「うん」
「いつもっ…、寝癖つき放題なのに……今日だけっ、ちゃんとしてて…っ!」
「…うん」
「なんか、怖くてっ……、わ、っ?」
「怖いって、意味わかんねえし」

衣擦れの音が聞こえてきて、早く終わらないかなと足を少し動かす。今のまま、いい雰囲気にするのは名前の手にかかっている。

「名前、が…俺を捨てちまうかも、って……」
「はあ……お前、馬鹿だな。マジで馬鹿、ほんと馬鹿、超馬鹿」
「は、はあ!?んな言わなくても、」
「捨てねえよ。お前が離せって言っても離さない」
「……馬鹿はどっちだよ」

よかった、仲直りしたみたいだ。さて、俺はこの甘ったるいカップルを連れて帰らなければならない……うん、頭が痛いな。

甘い衝突
(お菓子よりもずっと甘ったるい)

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