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恋とは痛みを伴うものだ

「最近、君と会うと痛いんだ」

黒ぶちの眼鏡をかけた名前ちゃんが呟いた。痛いって、何が?そう問いかけたら、彼女はもどかしそうに胸が痛いと答えた。

「胸が痛い…?も、もしかしたら、不治の病かも!」
「え!?そんなの絶対嫌だ!わたしはまだ読み足りない!」
「なんてウッソー!」

にこやかに冗談でしたと言えば、彼女はいつものように眉間に皺を寄せて怒るのかと思いきや、安心したように笑ったのだ。

「よかった…。まだこの本を読み終えてないし、君と会いたいからね」
「……なにそれ、口説いてるの?」
「口説いてなんか……!」

ぶわっと顔を赤らめる彼女は実年齢より遥か下に見える。僕より一つなのに、どうしてこんなに守りたくなるのだろうか。
彼女は顔を本で隠しながら、ごにょごにょ僕に話しかけてきた。ほんと、可愛いな。

「そ、そういえば、葉月は毎日図書室に来て楽しいのか?」
「楽しいよ。だって、名前ちゃんに会えるから」
「そ、んなの……いつでも会えるだろう。毎日来なくたって、」
「僕はさ、水泳も好きだけど、名前ちゃんも好きなんだ。毎日、君の胸を痛くさせたい」
「……君、さりげなくサドスティックな発言はやめなさい。また胸が痛くなった」
「ねえ、それってさ」

恋、なんじゃないの?

核心を突くと、彼女は瞠目して、次に顔を更に赤らめた。これまでに見たことがない照れ具合だ。
もし、そうだったら、いいのにな。こうやって僕がいそいそと毎日図書室に足を運ぶことが身に結ぶ。これ以上にないくらいの幸せだ。

「死んでもいい」
「え?」
「確か、二葉亭四迷だったかな。有名な言葉だ。ちなみに、彼のペンネームである二葉亭四迷とは、彼の父親が『くたばってしまえ』から来たそうだよ」
「え?ちょっと、どういうこと!?死んでもいいって……!」

やだよ、名前ちゃんが死んじゃうなんて。嫌な想像がどんどん溢れてしまう。
すると、彼女は目を丸くして、くすくす笑い始めた。

「I love you.」
「えっ……」
「二葉亭四迷の和訳は、『死んでもいい』。分かったかな?」
「……僕も、だよ」

胸が痛いって戸惑う君も、すぐ顔を真っ赤にしちゃう照れ屋な君も、遠回しな表現する君も、全て大好きだよ。

「はづ、き…?」
「僕たち、両思いだったんだね!」
「っわあ!?だ、抱きつくな!胸が痛くなる!」
「もっともっと、痛くさせたげる」

耳元でそう囁いたら、彼女はまた顔を真っ赤にして、僕を睨み付けるんだ。

「絶対、このわたしの痛みを葉月にも味わせてやるからな」
「楽しみにしてるね」


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