!リンゴ
文化祭が終わって気が緩んだ俺こと高尾和成は、風邪をひいた。原因は疲れやらなんやらあったが、一番は昨日の帰り道に突然の豪雨に打たれたことだろう。
「ざびいぃぃ」
「やっほー高尾」
「栄司…?」
「お前がくたばってるって聞いたから、喜んで見舞いに来てやったぞ」
放課後、栄司が俺の部屋に訪ねてきた。
そいつぁありがてえことだな。もうろうとする思考では、いつものようなツッコミはできない。相当やられたな、山田ちゃんに。
「なんか食いたいもんある?」
「なんもいらない……」
「……ちょっと待ってろ」
……栄司が部屋に出ていってしまう。いつも一人でいる部屋なのに、とてつもなく広くて寂しい空間だと思えてしまう。
一人にしないでほしい。
「バーカ、部屋出なきゃなんもできないだろ?」
「あれ……口に出してた…?」
「うん、出してた。すぐ終わるからいい子にしてろ」
ぽんぽんと頭を撫でられ、そこからまた熱がじんわり集まる。ヤバい、俺相当やられてる。
栄司がこんなにかっこよくて、大好きだなんて。
「た――高尾ー?」
「ん……」
「寝てるところごめん、リンゴのすりおろしできたからさ。食べる?」
ぐっすり寝たせいか、空腹と喉の渇きがひどかった。俺はこくりと首を緩慢に縦に振った。
栄司は俺の背中に手を回して起こし、クッションを置いた。うわ、ちょー楽。
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