!奢ってくれるなら
誰かと誰かの話し声が聞こえてきて、顔を上げたら高尾がいた。なんでこいつ、ここに。
「高尾…?なんでいんの?」
「うぉ、栄司…別に」
「ふーん。あーよく寝た」
なんか高尾がぴりぴりしてるし。僕は伸びをして、机の上にある資料をまとめた。そろそろ帰らなきゃ。
「なぁ、栄司」
「なに?」
「お前はさ、山田ちゃんのこと、どう思ってんの?」
「どうって……」
いつもより真剣な眼差しの高尾を見て、僕は気付いた。こいつ、山田さんが好きなのか!!ここは無難に答えておこう。
「働き者だよ。いい人なんじゃないかな?」
「そっか」
「高尾、もう部活終わった?」
「おう。文化祭の準備でな」
険しかった表情はどこへやら。いつもの締まりがない顔で、高尾は「いっしょに帰ろうぜ」と肩に腕を置いた。
やっぱり、喧嘩なんてなかったんだ。ホッとしたら腹の虫が鳴いた。高尾と顔を合わせて、マジバに行くことになった。
「そういえばさ、なんで最近口きいてくれなかったんだよ」
「あーそうだった?ごめん」
「忘れてたのかよ!!なら、もういいし……」
「なぁんだよ栄司ちゃーん。機嫌直せって!」
「高尾がマジバで奢ってくれるなら許す」
「ポテトな、ポテト」
僕らの日常はゆるゆると続いていた。
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