!あたし、見てたんだよー?
どこもかしこもオレンジ色に染まる時間帯。俺は緑間の忘れ物を取りに教室に向かっていた。つーかこれ、前もあったような気がする。
ガラガラと開けたら、一人、席に着いて寝ている奴がいた。栄司だ。
左腕を枕にして、アホ面を晒している。なんか、久しぶりに栄司の顔をちゃんと見たな。
ふと、机上の物が目についた。メニューに、衣装や看板のデザイン、接客マナーが書いてある資料があった。こいつ、こんなに調べたり、指示していたんだな。
「たか……お」
突然呼ばれた名前にぴくんと反応してしまった。仕方ない。俺は高尾和成なんだから。ていうか、栄司の唇ってカサカサしてないし、薄いけど柔らかそう。
「ちょっと、だけ……」
一応確認のため栄司の髪を撫でる。反応なし、熟睡。それならば、と唇に誘われるように顔を寄せていく。
ふわりと石鹸と栄司の混じった匂いが香る。うっとりしながら距離を縮めていく。
あと、数十センチ。その時だった。
「あれ、高尾君?」
「……山田」
山田が扉のところにいた。幸い、山田がいる場所は後方だからギリギリ大丈夫、なはず。
「へえ、やっぱり高尾君って栄司君が好きなんだ」
「なんで、そうなるんだよ」
「だってさっき、キスしようとしてたじゃない。あたし、見てたんだよー?」
ニコリと小首を傾げながら微笑む山田に、俺は嫌な汗をかいた。どうしよう、俺。
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