!とある勇者の懺悔
あれは俺が中2の頃。小学6年の時に転校した栄司が、俺の中学に転校してきた。
それまでずっと、文通や電話を使って連絡していた。会いたかったけど、所詮俺らは子供。
近いようで遠いその距離に、俺は苛立ちを覚えた。
俺はまた栄司と学んで、遊ぶことができると喜んだ。その頃から俺はアイツに友愛というより、恋愛感情を抱いていた。
「よっ!久しぶりだな栄司!」
「っ、和成…?」
「あったりー!なに、緊張してんの?」
「緊張してないし。うわ、久しぶり……って、あんまし経ってないけどな」
最初強張っていた栄司が、俺と分かると雰囲気が柔らかくなったのは、何とも言い難い感情になった。
名前をつけるとしたら、優越感。俺は栄司に親しい者として、認定されたのだ。
「和成知ってる?栄司君の転校の理由」
「知らねー」
興味ない素振りをしつつも、心中では知りたくて堪らなかった。もぐもぐ飯を咀嚼(そしゃく)する俺に、母は爆弾発言を落とした。
「栄司君ね、前の学校で虐められていたみたいなのよ」
「は?」
「中1の時に、剣道部に入ったらしいけど、先輩と合わなかったみたいでねえ。あら、和成、ご飯付いてるわよ」
「……マジかよ」
俺は飯粒を付けた間抜け面で、頭を抱えた。さっきから母の言葉が、脳内で反響していた。前の学校で、イジメ。
文通とか、電話とかで、そんな気配を全く見せなかった。俺はどうして、気づけなかったんだ。
「おはよ、栄司」
「おはよ、和成」
「昨日の宿題、やってきた?」
「やってきてるよ。なに、和成やってないの?」
なかなか聞きたいことを言えない。お前、イジメにあっていたのかって。言ったら、今にも栄司が泣き出しそうで、俺は逸らすしかなかった。
「……お母さんから聞いたんでしょ。僕のイジメ」
「えっ、あ、うん…。その、俺、気づけなくて……ごめんな」
「なーに和成が謝ってんの?はは、変な顔」
何故かニコニコしている栄司が許せなかった。俺は何に対する怒りなのか分からないまま、栄司にぶつけていた。
「なんで、そんなにへらへらできるんだよ!俺に、相談してくれたっていいじゃん!ずっと……お前の親友だと思っていたのに…!」
すると栄司は、きゅっと申し訳なさそうに言った。
「和成…ごめん、かけたくなかったんだ」
栄司は俺より大人で、成長していた。子供でワガママな俺を置いて、アイツは先を歩んでいた。
大事な初日の登校を、台無しにしてしまった。そう俺が後悔していたら、栄司が呼吸を乱してぶっ倒れた。
急いで栄司をおんぶして(俺の方がまだ大きかったから簡単だった)家に居た母に伝えた。
診断は過度のストレスによるもの。イジメが終わってから、よく栄司は倒れたそうだ。
俺はもうこんなことにはさせない。固く決心をしたのに。
「ほんと……情けねえな」
ソファの上で膝を抱え込む。俺、アイツのことを何も知らないし、聞いてない。栄司のために、色んなものから守ろうって決心したのに。
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