さばの缶詰 | ナノ




「そういえば、七瀬先輩って知っていますか?あなたが通っていたスイミングクラブの同級生」


「……知ってるけど」


「僕、水泳部に入りました。その人が副部長の水泳部に」


だからなんだ、金槌のあんたが水泳部に入ろうが関係ない。そう言いたげなわたしの目に気づいたのか、怜は真剣な顔で言った。


「あなたも、そろそろ向き合ったらどうですか。苦手なものを避けていたって、何も変わりませんよ」


「……誰から聞いたの?そのはな、」


「れーーいちゃん!今帰り?」


突然の闖入者に言葉を遮られた。調子が狂わされていい気はしない。誰だよと思って見れば、そこに葉月渚がいた。

ヤバい、逃げなきゃ……!


「あれ、怜ちゃんの彼女さん?」


「なっ!ち、ちがいます!彼女は、」


……よかった。彼は気づいていない様子だ。慌てて弁解する怜ちゃんの言葉に、別れの挨拶をかぶせてさっさとその場を去った。


「えっ、あれ、帰っちゃったよ…?」


「あ〜〜もう!あんたのせいですよ……!」


葉月渚も岩鳶の制服を着ていた。恐らく、怜ちゃんは葉月に誘われたのだろう。葉月がいるなら……七瀬も橘もいるに違いない。あの三人はいつも一緒だったから。


そういえば、小6で転校してきた松岡は…まだオーストラリアで頑張っているのかな。わたしに告白して、返事は帰ってきた時に聞くって逃げちゃったけど。


ふと視線を落とすと、腐った鯖みたいな目をしたわたしが水溜まりに映っていた。死んでる、わたし。





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