さばの缶詰 | ナノ




わたしの嫌いな水がたくさん押し寄せては引いていく。助けを求めるように七瀬を見ると、脱いでいた。

慌ててズボンに手を掛けるのを阻止しようとしたら、下に水着を履いていて安心した。


「透、入らないのか」


「七瀬……わたしのトラウマ知ったくせに、まだ言わせるの…?」


「……………」


しばらく黙り込んだ七瀬は、わたしに近づいてきてふわりと横抱きをした。いきなりのことに思考が追い付かず、七瀬の腕の上で身体が固まる。


「な、なせ……!?」


「名前で呼んでくれないのか」


「はる、か!遙、やだ、やめて……っ!」


「嫌だ。入るぞ」


わたしの部屋に遠慮なく入ってきた時のように、じゃぶじゃぶと水の中に入っていく。遙の腰辺りに海水が触れた時、そこで進むのを止めた。

いくら横抱きにされていても、下には嫌いな水。怖くて怖くて、ギュッと拳を握った。


「透、下ろすぞ」


「はあ!?ちょっとはる、っ!!」


わたしは水に落ちた。抗う暇すら与えず、遙はわたしを水に落とした。このまま、水面に上がらずに沈んでしまおうか。そんなアホな考えをしていたら、遙に引き上げられた。


「けほっ、けほけほっ…!いきなり下ろすなバカはる!」


「すまん。手が滑った」


「……はあ。何これ、ショック療法ってやつ?」


「透に…もう一度、泳いで欲しかったから」


「……わかったから顔を近づけないで!?ね!」


ぐいぐい来るな遙!意外な一面にどきどきしながら、押し返していると遙が口を開いた。


「あの濃いやつより…こっちのお前が綺麗だ」


「………そうですか」


「好きだ」


「……は?」


「透が、好きだ」


わたしも。小さく頷いたら遙の目がキラキラと輝いて、ふわりと唇が触れた。

やっと、伝えられた。





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