さばの缶詰 | ナノ
そういえば、ずっと気になっていたことがある。どうしてわたしを見つけられたんだろう。
「渚から聞いた」
「葉月から?」
「ああ。お前が、非行に走ってるって」
「なにそれ……葉月ったら相変わらずアホっていうか」
「お前のこと、みんな心配していた。渚も真琴も怜も凜も……俺もだ」
驚いた。七瀬が、わたしなんかのことを気にかけていたなんて。びっくりして……目頭が熱くなってきた。自然と七瀬の腰に回す手に力が入る。
「あと、お前が水泳を辞める原因も聞いた」
「怜ちゃんから聞いたんだ? ……馬鹿だよね、わたしは。小学生が助けようなんて思っちゃってさ」
「別に……いいんじゃないか」
「そう?でもね、母さんに怒られたんだ。生きてたからよかったものを…!って。わたしさ、後悔してないよ……溺れてる怜ちゃんを助けようとしたこと」
「ああ」
「でも、でもっ……!水が怖くなった…あんなに優しかった水が、怖い」
声が震えて、前の七瀬が歪んで見える。水が怖いだなんて、スイミングクラブに入ってたわたしにとって恥ずかしかった。
だから、逃げるように辞めた。母さんも父さんも特に反対はしなかった。ただ、笹部コーチだけは寂しそうに「そうか」と言ったことを印象深く記憶に残っている。
「七瀬は、まだ水が好き?」
「ああ」
「そっか」
「……着いた」
砂浜にはテトラポッドが置いてあり、いかにも海って感じでわたしのトラウマを刺激する。ああ、嫌な汗をかいてきた。
「行くぞ」
「まっ、待って……!」
適当に履いてきたサンダルに、砂が入ってきて気持ち悪い。じゃりじゃり感を味わいながら、水泳を辞める元凶となった海に、近づいた。
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