さばの缶詰 | ナノ
もうこりごりだ。昼間、部屋の布団に寝転びながら、昨日のことを思い出した。わたしはあの後、葉月から怒涛の質問責めをされた。一部を抜粋してみようと思う。
『どうして岩鳶じゃないの!?』
『学力的な問題』
『なんでスイミングクラブ、突然辞めちゃったの!?』
『…………水泳、きらいになったから』
『……どうして、嫌いになっちゃったの…?』
葉月は水泳を嫌いになったと言うわたしに、まるで自分が嫌われたかのように問いかけてきた。
水泳も鯖も、みんな嫌いだ。どうしてわたしは溺れちゃったの?どうして…遙は、わたしじゃないひとを好きになるの…?
『葉月も、七瀬も橘も松岡もっ……みんな、好きじゃない。だいっきらい』
『ちょっと透っ!』
『帰って。もう顔も見たくない。あんたの顔見てたらいやなもんまで思い出すから』
顔を伏せて思いっきり突き放したから、葉月の表情はわからなかった。けれど、彼の『ごめんね』は少し震えていた。
「ごめんね……」
それはわたしが言わなきゃいけないセリフなのに。葉月は堪えるように、言った。わたしも、言わなきゃいけないのに。
うんうん唸っていたら、部屋の扉がノックされた。……誰だよ、今は誰にも会いたくないし話したくもない。
「透、遙ちゃんが来たよ」
「悪いけど、帰ってもらうように言って」
わたし、部屋に引きこもっていたからノーメイクで髪はぼさぼさだから会えません。すると、部屋の外から母さんの苦笑いが聞こえた。
「悪いけど、もう遙ちゃん上がってるのよねえ」
は?
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