さばの缶詰 | ナノ
鮮魚『イワトビ』のアルバイターになって1週間、七瀬が姿を表さなくなって1週間……正直に言うと、とても悲しい。
初恋の相手だったひとに会えて満足していた反面、いつバレるかヒヤヒヤしていた。だから、七瀬が来なくなったのは……別にいいってわけじゃない。
そして、もっと話したい、少しでもいいから一緒に居たいと欲が出てきちゃったのだ。
「あーあ、来ないかな……」
クッションにお澄まし顔で座るルルくんに、目線を合わせるようしゃがみこんで呟いた。
「素直に言えばいいじゃないですか」
「ひえっ!?ルルくんが喋った!?」
「ちっ、違います!上、上!!」
「……なんだ、怜ちゃんか」
見上げると部活帰りの怜ちゃんが立っていた。がっかりするわたしに、怜ちゃんは「じゃあ誰だったらよかったんですか」と睨んできた。やだーこわいこ。
「怜ちゃん早いってばー!」
ぱたぱたと後ろから葉月が走ってきた。相変わらず、ふわふわしてるなあ。でも身長は伸びたっぽい。なんか、知らない男の子みたい。
「貴方が遅いんですよ」
「あっ!怜ちゃんの彼女さんですよね!こんにちはー!」
「こんにちは」
「だから違います!貴女も否定してくださいよ!!」
慌てる怜ちゃんににやあと笑ってみせた。サーっと顔色が悪くなる彼を傍目に、わたしはニコニコ笑った。
「名前は何ちゃん?」
「えっ、えーっと……」
こんどはわたしが困る番だった。どうしようと悩んでいたら、怜ちゃんがここぞとばかりにばらしやがった。畜生、この理詰めがねが!!(悪口)
「君が会いたがっていた、塩井透さんですよ」
「………………………ええええ!?」
「ちょっと何ばらしてんのよバカ怜!!」
「さっきのお返しです」
「いらないよ!この石頭眼鏡!!」
あーもう、最悪な気分だ。
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