さばの缶詰 | ナノ




「お前、ずいぶん変わったな」


そう言いながら黒いキャップをかぶった男は、手を後ろに回してパチンと紐か何かを弾いた。あ……この癖。


「もしかして、松岡…?」


「久しぶりだな、透」


「う、うん……。なんか、おっきくなったね」


小学六年生の時はわたしと変わらない身長だったのに、今ではちょっと見上げなきゃいけないくらい高くなっていた。


「アイツ、お前の元彼か」


「う、ん……。こういうのは初めてだけど」


「つまりもう処女じゃないのか」


「は、はぁ!?ななな、に言ってんの!?」


街の往来でさらりと非処女の疑惑を投げつけるな!顔が熱くなるのを感じながら言うと、松岡は涼しい顔をして「違ったか」と言った。違うわ、バカ。


「ばか…松岡のバカ!」


「お前よりは頭いい」


「……はいはい」


「早く立てよ。お前こそ馬鹿に見られるぞ。ただでさえ見た目が馬鹿なのに」


馬鹿馬鹿うるさいなコイツ……!わたしだって早く立ち上がりたいけど、腰が抜けたのか立てないんだよ。

わたしの心中を察したのか、松岡はため息をひとつ吐いて(これが様になるからムカつく)わたしに手を差し伸べた。


「ほら、早く」


「…ありがと、っ!?」


「ほっせーな、身体。ちゃんと食ってるか」


「た、たべてるから!腰さわんなアホ!」


不覚にも松岡の逞しい腕と胸板にときめいてしまった。畜生、この帰国子女が!あんな可愛かったのに……ムカつくくらいイケメンになりやがって。


「顔真っ赤だぞ」


「うるさい……!」





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