さばの缶詰 | ナノ
バイトが終わった後、なんとなく街の中心部に足を運んだ。ずっと立っていて足が疲れていたけど、心の疲れを吹き飛ばすためだ。
色々な雑貨屋をウィンドウショッピングしながら、お給料の使い道を考えていた。どうしよう、ルルくんに何か買おうかな。
まだ見ぬ給料に想いを馳せていたら、後ろから肩を軽く叩かれた。振り返ると、元彼とそのお友達が一人いた。
「透じゃーん、久しぶり」
「ひ、久しぶり」
「なに、お前の彼女?」
「いやいや、彼女は彼女でも元カノだっつーの」
用件が無いなら話しかけないで欲しいんだけど…。男二人に囲まれているから、あまり刺激しない方がいいと思い愛想笑いを浮かべていた。
「でさ、今から暇?」
「えっと……今日はもう家に帰らなきゃ」
「えーそう言わずにさぁ、俺達と遊ぼうぜ?」
「なんだよそれ、だっせえセリフだな」
元彼に肩を無理矢理抱かれて、身動きが取りにくい。ヤバい、万事休すとはこのことか!!
「ちょっと本当今日は無理だから……!」
「なんだよ、別にいいだろ?今はお互いフリーなんだしさ」
「それとこれは関係ないって!もう、離してっ!」
「おい、何してんだよ透」
怒りを滲ませた低い声が後ろから聞こえ、振り向くと黒いキャップをかぶった男がいた。いま…わたしの名前を、
「おい、誰だよアイツ」
「透は俺のツレだ。離してくれないか」
離してくれないかって言ってるけど、元彼の肩に乗せられた手はギリギリと握りしめている。その異様さに、元彼の友達の顔が青くなった。
「お、おい行こうぜ…!」
「…チッ」
舌打ちを一つ残して元彼達は去って行った。よ、よかった…安心したら力が抜けて、ずるずるとその場に座り込んでしまった。
←|→