さばの缶詰 | ナノ
早速今日から働くことになったわたしは、鮮魚『イワトビ』と書かれたエプロンを付け、おじさんから借りたゴム手袋を右手につけた。よし、完璧。
並べられた魚を見たところ、わたしがお使いに来ていた時と全然変わっていなかった。すごい、流石おじさんだわ。
オーソドックスな種類からここでよく釣れる魚が、綺麗に並べられている。と、まあ…何もすることがないんだよね。
「あの、何か仕事はありませんか?」
「んーじゃあルルに餌をやっててくれないか?」
「はい、わかりました。ルルちゃーん、ご飯だよ」
「ああ、ちなみにルルはオスだからな〜」
…………え?ルルちゃん、じゃなくてルルくんが正解だったの!?なんか……あいつらみたいだね、ルルちゃ…くん。
「ごめんね、ルルくん。どうぞ」
「にゃあん」
気にするなという意味かな。猫だから何を言ってるのか分からないから、わたしの偏った解釈になっちゃうけど。
ルルくんはもぐもぐとご飯の煮干しを食べ始めた。うんうん、やっぱり男の子でも可愛いよ。同じように女の子みたいな名前のあいつらより、数百倍可愛い!
「くしゅんっ!」
「ハル大丈夫?風邪?」
「違う…。婆ちゃんが言っていた。くしゃみをする時は、噂をされてる時だって」
「んなバカな……」
誰だよ、歩きながら婆ちゃんっ子発言してる奴は。ルルくんから目を反らして振り返ると、男が二人歩いてこちらに向かって来た。
「こんにちはー。ここは鮮魚『イワトビ』さんですか?」
「見ればわかるだろ、真琴」
「真琴?」
「えっ?」
「…? 知り合いか?」
思い出した……!わたしに声をかけてきたでかい男は――橘真琴。そして、真琴と呼んだもう一人は――七瀬遙、わたしの……初恋のひと。
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