宇宙人かと思った
現在、橘真琴は困惑していた。この異様な期待に包まれた空間に、困惑していた。隣にいる鯨木柚子は鼻歌を歌いながら、さらさらと何かをコピー用紙に描いている。
どうして…どうしてこうなった……!
真琴は激しく自分の行動に後悔していた。事を一時間ほど前に遡る。真琴と柚子、七瀬遙が教室で雑談していると、目を血走らせた女子生徒が現れた。
「美術部の部長です」
「また美術部か……」
「俺は入部しない」
「いえ、七瀬君にではなく、橘君に話があります。来てください」
「えっ!?俺…?」
美術部の部長と自称する女子生徒は、肯定するように首を縦に振った。どうして自分なのか真琴が考えていると、女子生徒は畳み掛けるように言った。
「別に来てもらわなくても構いません。ただ…七瀬君に来てもらうことになりますけどね」
「っ……!」
「真琴、俺もついてってやるよ。いいだろ?」
「……まあ、お好きにどうぞ」
有無を言わせない状況に真琴は「行くよ」と了承した。満足そうに笑う美術部の部長に、腹が立ったのは言うまでもない。
「橘君は、七瀬君とよく居ますよね?だったら絵が上手いはずです!だから……これを描いてください」
「これ、は……」
「おー!渚じゃん。ていうか、これ盗さ」
「さあさあ、描いてみてください!描いてくれたら帰しますよ」
それから、あれよあれよという間に鉛筆と画用紙を渡された。付き添いである柚子は「暇だから」という理由で、隣に座って描き始めた。
「ふーっ、できたぞ真琴ー!」
「ええっ!?も、もう…?」
「なんだよ、まだ終わってないのか?ん…?」
「あっ、まだ終わってないし、見ないで」
「あれ?描くのって渚だよな……宇宙人かと思った」
わかっていた。自分は絵の才能が無いことなんて。真琴は柚子の容赦ない言葉に傷つけられながら、悪あがきのように隣の絵を見た。
「えっ!?こ、これ柚子が描いたの?すごい、上手いじゃん…」
「まあな。こういうの、結構好きなんだ」
「鯨木君……ぜひ、是非とも我が美術部に来てください!!」
「やだよ。真琴達と遊べなくなるじゃん」
柚子の理由に苦笑しながら、自分達を優先してくれたことに嬉しいと思った真琴であった。
(遙ー!これ、なーんだ!)
(……E.T.?)
(ぶはっ!E.T.…!)
(柚子、こっちにおいで?)