闇に溶ける前に 

練習が終わり、校門に向かっていると人影を見つけた。その人物は俺を見つけた瞬間、手を振った。俺はそれを見てため息をついた。


「ゆーきちゃーん!お疲れぶふっ!!」

「てめえなんで早く帰らなかった」

「いたた…。そりゃ幸ちゃんが寂しくないようにさ。単純明快、だろ?」

「お前早く帰るっつっただろうが!」


バシッと背中を叩くと、鈴木は「暴力的だなあ」と笑った。顔が無駄に整っているので、尚更腹がたつ。しかも俺より身長が高い。


「んー、女の子を誘うのもよかったけど、最近は、ほら、物騒じゃん?だから幸ちゃんと一緒に帰ろうかなって」

「あっそ」


身を案じられていることに気づいてしまい、耳が、顔が熱くなる。ああ、くそ、恥ずかしい。


「あれ?幸ちゃんどうしたの?」

「うっせーよ馬鹿」

「いたっ!もう、俺の身体が傷物になったら責任取ってお嫁さんに来てよね!」

「だだだ誰が行くかバーカ!!」


俺が真っ赤になって叫べば、鈴木は目を丸くしてきょとんとしていた。なんか、間抜けだ。


「ええええ!?てっきり幸ちゃんは『仕方ねーな!』って嫁いでくれる…そう信じてたのに…!」

「何が仕方ないだ。ていうかお前寒くなかったのかよ」

「死ぬほど寒かった。もうこの美貌を保ったまま、凍って死ぬなんて最高だと思ったくらい」

「マジで一回凍死してこい」


ぶっきらぼうにそう言えば、「だから幸ちゃん温めて!」と手を握り締めてきた。驚いて身を硬くさせると、鈴木は慌てて手を離した。


「って、ごめんね!幸ちゃん、嫌でしょ!だから――」
「別に嫌じゃねぇよ」

「え?今、なんて?」

「いいから早く繋げ!帰るぞ!」

「! よし、帰ろう!」


鈴木はニコニコ笑いながら手を再度握り締めてた。気持ち悪いぞと指摘したら、さらにニコニコし始めた。

自分で言ったのはいいんだけど、今、ものすごく恥ずかしい。俺は鈴木に気づかれないように顔を伏せた。


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