ちいさな約束
私の一番大好きな時間がやってきた。るんるんと鼻歌を歌ってしまいそうな勢いで扉を開けたら、少し離れたところに人が倒れていた。
「ええ!?だ、大丈夫ですか!?」
「だ……大丈夫じゃ…………ねえ」
「どどどどうしたんですか!?一体何が!?」
「腹…………へった」
はい?
「ごちそうさまでした!本当うまかった。ありがとう」
「いい食べっぷりでした。はい、お茶どうぞ」
私のお昼ご飯は綺麗に彼の胃袋へ収まった。今日の卵焼きはめちゃくちゃ上手くいったけど……美味しかったならそれでいいか。
どうやら彼は財布を忘れてしまったらしく、屋上でしのごうとしたがお腹がすきずて倒れてしまったらしい。なんか色々とツッコミ所があるけどスルー。
「そういえば、名前なんて言うの?」
「火神大我。火の神で火神だ」
「私は田中みのり。待って、火神君……あ、全校朝会の火神君!日本一を目指してるって宣言してた火神君だ!」
「ま、まだ覚えてたのかよ…!」
火神君は顔を真っ赤にして手で隠してしまった。あはは、可愛いなあ。加虐心をくすぐられて更に言ってみる。
「えーっと、一年B組の火神たいが君!」
「……もう止めてくれ。田中の昼飯を全部食べちまったことは謝るから…!」
「別に気にして―――」
ぎゅるるる。その場に合わない私の腹の虫が鳴る。ぶわあああって顔に熱が集まるのが分かる。すると、火神君が急に立ち上がり、こう言った。
「飯、買いに行こうぜ」
「い、いいよ!って、火神君!」
「明日、また屋上に来たときに払うから」
明日、また会える。その約束に私の胸はぐっと何かに掴まれた。私は「じゃあ、いっちばん高いスペシャルストロベリークロワッサンにしようっと」と笑いながら答えた。
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