うたかたに消えてゆく 

花宮はすごい。

何がすごいって、僕が無視しても「無視すんじゃねえよクズ」って言うし、蹴っても「てめえふざけんな!」と反抗するし、散々恋人である僕に罵倒されても泣かない。

でも、昨日、花宮のチームメートの……よく寝てるひとが注意してきた。花宮を不安定にさせるなって。

「あんなクズ集団にも、クズみたいな絆があるんだね。愛されてるじゃん、花宮」

「っ……がっ、!」

「何か反応してよ、ねー?まこちゃんは頭いいのに、こういう時だけ馬鹿だよね、ほんと」

「うぜ…え……」

「ふふ、それしか言えないなんて、猿以下の知能しか持ち合わせていないんじゃない?」

花宮の綺麗な顔はちゃんと残しておいたよ。この綺麗な目が愛憎に塗れているのが堪らない。そしてまた僕は蹴る、蹴る、蹴る。

「花宮はさぁ、僕のどこが好き?」

「…っあ、う……」

「こんな非道い男のどこを気に入ったの?」

「ぜ、…んぶ………」

「ぜんぶ…?はは、花宮も物好きだねぇ。可愛い、可愛い」

「京介、は……どうなんだよ…?」

「僕?僕は好きじゃないよ?僕は、君に復讐しているんだから、好きになるわけがないじゃないか」

あっけらかんと言えば、初めて花宮の顔が真っ青になって、身体がぶるぶる震え出した。兄さん、見てますか?貴方を死に追いやった男が、たった今、絶望という崖っぷちに立たされています。

「おま、え……鈴木×××の、弟か…」

「うん。君のせい、ってわけじゃないけどさぁ、僕の兄さんは死んだんだよ。自殺して。眠るように死んだ。安らかに死んだ。知らないうちに死んだ。死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ」

呪詛のように言葉が、怨みが、悔しさが、どろどろ汚く花宮の上に落ちていく。花宮の顔を真っ黒に黒に黒に黒に黒に黒に染め上げてやがて見えなくなって彼は居なくなって見えなくなって泡になって塵になって空気になって宇宙になって、僕は笑った。

「ねえ、花宮、」

どうして泣いてるの?


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