ずるいひと 

※大人パロ


ぬくもりに包まれながら目を覚ました。横に寝ているキヨは子供のようだ。しっかりと閉じられている瞼を指でなぞってみる。

ぴくりともしないキヨに私は焦り、耳を近づけ呼吸を確認する。キヨは規則正しく息をしていた。

ベッドからそろりと足を出し、まるでイタズラをする子供みたいに物音をたてないように台所へ向かう。

この部屋は、私とキヨの所謂愛の巣。小さな部屋だけど、思い出がいっぱい詰まっているのだ。エプロンをつけ、鼻歌を歌いながら支度をする。

そういえば、私も木吉になったらキヨって呼べなくなっちゃうのか……。まあ、今のままじゃそんなこと起こらないよね。

じゅうっと音を奏でる卵。最初はスクランブルエッグしか作れなかったけど、今はもう専業主婦になるくらい上達した。


「みのり、おはよ」

「おはよう、キヨ」


ふにゃりと目尻を下げ、私の肩に頭を乗せてきた。ふわりと香るシャンプーはいつものじゃない。


「……危ないから先に顔を洗ってきなよ。まだ寝ぼけてるよ」

「んーそうする」


洗面所に向かうキヨの背中を見ると、複雑な感情が入り交ざる。彼、天然だから私が気づいていることを知ってるのかしら。

相手が憎くて憎くてたまらない。私はまるでフライパンに熱を与えられすぎて焦げたバターのよう。今、ちょうど、


「みのり!焦げてるぞ!」

「っあ!ご、ごめん」

「みのりも顔を洗ってきたらどうだ?みのり…?」

「あ、ああ、ごめんね。洗ってくる」


ああ、この顔もあの人の前でするの?その仕草も、その声色も、息づかいも!鏡に映った私は酷い顔をしていた。

こんなはずじゃなかったのに。ぎりぎりと洗面台の縁を、手が白くなるほど握りしめる。嫌いなら、憎いなら、さっさと手を切ってこの同棲も止めればいい。私ってほんとバカ!


そして、私をここまでさせるキヨは、


「ずるいひと、ね」


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