普段の柊は仏頂面で、それこそハルに負けないくらい無愛想で無口だ。
でもそんな彼はハルの前だけ、冷たい態度が軟化して場所を構わずにべたべたと……別に嫉妬はしていない。

「遙、口開けろ」
「あー」
「ん。美味い?」
「美味い。もう少し」
「はい」
「なんかカップルみたいだねーマコちゃん!」
「そうだな…」

本当、見てるこっちが腹立たしいくらいにラブラブなカップルだ。
ハルの頬に付いていた米粒に気づいた柊は、手ではなく口で取った。さすがの俺も恥ずかしさから、指摘した。

「ひ、柊!なんで口なんだ!」
「真琴もしてほしいのか?」
「違う!そういうわけじゃ、」
「ん」

頬に柔らかい感触が触れる。ちらりと見えたハルから嫉妬の炎が少し見えた。俺は慌てて引き剥がして、柊を座らせた。
まったく、油断も隙もない。

「こういうのは好きなハルだけにやりなさい!」
「……うん、わかった」
「よし…、ってハル!?」
「真琴……俺の柊に何をさせた」
「いや違うって!俺は関係ない!」
「渚、遙に俺の柊って言われた……」
「ふふ、ハルちゃんって執着が強いよね」

このあとはハルをなだめるのに大変だった。当の柊は何事も無かったように、授業中だけどすやすや寝ている。
ようやく授業が終わったのでハルと一緒に彼を起こすが、全然起きない。ハルが名案を思いついたようで、俺に任せろと言ったけど……。
ハルは顔を柊の耳に近づけて「起きろ、柊」と言って息を吹き掛けた。そのとたん、がばっと柊が起きて立ち上がった。

「よかった、起きて……」
「はるか……」
「帰るぞ、ひ、」
「えへへ…はるかだ〜」

あろうことか柊はハルを抱擁したのだ。さすがのハルも予想していなかったのか、瞠目している。
抱きついた本人はまだ寝ぼけているらしく、ハルの頬に頬擦りした。

「はるか…ちゅー」
「ちょっと、待っ!ん、ふっ……!」
「キャーー!!遙君と柊君がついにキスしたわ!」

騒然とする教室の中で柊は深くハルにキスをした。ようやく息絶え絶えのハルを離した柊は、舌舐めずりして言い放った。

「ん…ごちそうさま、はるか」

この日から俺の悩みの種は更に増えたのであった。


オンリーユー
(甘いのは君にだけ)

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