短編 | ナノ


ダーティ・アフェクション

臨也は私をずるずると引きずっていた。荒い息で必死に足を進め、少しだけ立ち止まりまた進む。そして部屋をぐるりと見渡して、フローリングに付いている血痕を視認した。
折原臨也は私を殺した。殺すつもりが無かった臨也は、ああ殺ってしまった、と少し後悔した。

あんなに好きだった彼女が死んでも、臨也は涙を一つも見せずに周りを上手く騙していた。

「名前?ああ、彼女となら…とっくの昔にフラれてさ」

傷ついた表情で周囲の人間は、ざまあみろと笑った。でも新羅は、疑惑を持ったけどセルティとの生活に支障がでなければいい、そう思って疑いを捨てた。
静雄は嘲笑した。こんな外道の男が幸せになれるはずがない。むしろ名前は賢明な判断をした。
京平は私を心配した。きっと臨也に何かされて、傷ついて袖にしたのだろう、と。

『ねえ名前。君は死が怖い?』
『……こわい、かも』
『何そのあいまいな答え』
『だって、わかんないよ。あ、臨也と死ねるならこわくないよ、ぜんっぜん』
『どうして?』
『ずっと一緒にいられるもの。私、臨也と離れたくないからさー』

臨也は……なんて答えたかな?ああ私は知らないのだ。何故なら、その直後に臨也に刺されたから。痛め付けられたから。
霞む視界に薄く笑う臨也がいた。あ、こんな笑顔を見たことがある。たしか静雄を罠に嵌めた時だ。
臨也は楽しそうにその様子を、足の間に私を座らせて後ろから抱える形で高みの見物をしていた。

「なあ、名前……本当はどう思っていた?新羅、シズちゃん、ドタちん…そして俺を。馬鹿にしていたんだろ、見下していたんだろ。そうやって俺達を、君は傍観者のように振る舞って君は……」

言葉を切って臨也は、私を浴槽に投げ捨てた。ぐちゃり。うえ、変な音が聞こえた。私、これからどうなっちゃうのかな。
臨也は大仕事を終えたかのように大きくため息を吐いて、浴槽の縁に腰かけた。

「君はどうして俺を、」
「好、き…だよ…っ…」
「なッ!?な、んで……!」
「い、ざや……わた、し、好き、だよ…」

ぐちゅ、ぐちゅり……うう、やな音がきもちわるい。臨也は私を見て何も答えなかった、何も言わなかった。
青ざめた顔で私をじっと見つめてる。お腹が痛くて痛くてたまらないけど、がんばって起きなきゃ。
変な方向に曲がった左腕を戻して、浴槽の縁に手を置いて力を入れる。
ねえ、臨也。あなたはなんて答えたかな。私は、

「俺は……君をこれっぽっちも愛していなかったよ」

そう。

「だから、もうやめてくれないか?君はただのストーカーで勘違いしてるイタイ子なんだよ」

うそでしょ。

「早く死んでくれよ……。どうして終わらないんだよ!お前が、お前が死ねばッ、終わりなんだよ…!!」

なにがおわりなの?

「はは、もういいよ。俺はもう無理だ。君と死んであげるからさ、もう終わらせてくれよ」

いや。

「いつまでもこんなパラレルワールドに付き合ってらんないよ、こっちは。新羅もドタチンもシズちゃんも騙して!何がしたいんだよ!!」

パラレル……?


臨也は、私を刺したサバイバルナイフで自分の首を切った。目を大きく見開いて私じゃないどこかに想いを馳せながら。



私は真っ黒に塗りつぶされた画面を見て、嘆息してボタンを押した。あーあ、また一からやり直しじゃない。

「はいはいリセットリセット。こんどこそハッピーエンドを迎えなきゃ」


汚い好意は彼を離すことはない。


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