八卦見さんが倒れる!

今日も一日、よく頑張ったな。肩をぐるぐる回しながら帰路についていると、目の前に人が倒れていた。行き倒れか。ここら辺じゃ珍しくない。


「う……た、助け、テ……」

「わりーけど、こっちも生活かかっているんデフッ!?」


行き倒れに足を引っ張られ、思いっきり顔から転けた。鼻が痛い、じんじんする。涙目になりながらそいつを睨み付けた。


「何すんだ!!このバ、カ…」




「ごちそうさまでしタ♪大変美味しゅうございましたヨ」

「そりゃよかった」


俺は行き倒れを家に連れ込んでしまった。何故なら、単純に美女だったからだ。濡れたように艶やかな黒髪、切れ長な目を縁取る長い睫毛、胸の主張はあまりないが、折れそうな腰を俺は抱きたい…!


「名乗り忘れていましタ!私はナマエと申しマス。よろしくお願いしマス」

「ナマエっていうのか!俺はアリババ。よろしく」

「ハイ♪そうダ!アリババさんにお礼に占ってあげまショウ♪」

「え?いいの?」

「問題ありまセン♪」


どこから出したのかわからないが、木のような細く綺麗な棒をじゃらじゃら出した。俺がそれに尋ねると「これは八卦と呼ばれていて我が国の占いでありマス♪」とナマエは答えた。


「ふむふむ、アリババさんの近い未来、いいことがありそうデス♪」

「本当か!?えーと、例えばどんな?」

「思わぬ協力者と出会うでショウ♪お互いを信じ合えば難問も乗り越えていくでショウ♪」

「協力者…?えーと、迷宮とかそういうのを攻略できるかな?」


するとナマエは、じゃらじゃらしていた一本の木の棒を唇に当て妖艶に微笑んだ。その様子に俺は唾を飲んだ。


「そうですネエ……貴方がその者を信じなければ、成し遂げられまセン」

「そう、か……。それよりもさ、俺とイイコトしない?」

「わっ……あ、アリババさん…?」


もう限界だった。いつもなら行き倒れなんて見捨てていく。だが、こいつは違う。美女が目の前にいて、がっつかない男がどこにいる!?いやいないだろ!!


「あのっ、アリババさん…!」

「うるさい」

「私は……男デス!!」

「は?」


驚いて胸を触ると確かにぺたんこだ。もしかして俺、騙されてる?でも、俺を見つめる切れ長な黒い瞳は変わっていない。


「あの……よく間違えられるんデス…。一人称が私っていうのも原因デ……」

「えっ……」

「それにお腹がすいて動けなかったので、女に成りすませばご飯が食べられると思っテ♪」

「……な、な、な!?」


すくっと立ち上がったナマエは、俺よりも身長が高いだろう。よく見ると細身ながらもたくましい筋肉がついている。


「でも、占いの結果は本当デス!」

「あり得ねえ……」


何も言えない俺にナマエは「ありがとうございました♪」と頬にキスを落として行った。ちょっと柔らかいと思ってしまった自分が悔しい。

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