飼い犬に手を咬まれる
飼い犬、という言葉にぴったりな男、ミョウジナマエ。コイツは俺が指示しか動かない。恐らくだが、俺が死ねと言ったら本当に死ぬのだろう。
そんなナマエに今日はオフだから、俺の命令を聞かなくていいと言った。
ナマエは目を丸くして「聞かなくていい…?」と復唱した。そのアホ面にコイツは俺の意図を全然理解してねえなと苛ついて、つい、「二度も聞くんじゃねえ」とつっけんどんな態度を取ってしまった。
「すみません。では、俺は今日一日中、リヴァイ兵士長の命令に従いません」
「おう」
「失礼します」
「……は?」
帰り…やがった。パタンと閉められたドアは、ナマエが立ち去ったという事実を深く俺を抉った。……アイツ、本当に頭が回ってねえな。
「おい、ナマエ!」
「はい、なんでしょうか?」
「……お前、俺が言いたいこと分かってんのか」
「いいえ、全然」
チッといつものように舌打ちをしかけたその時、ナマエはいつもは見せない笑みを浮かべた。
背筋がゾッとした。巨人が見せるような残忍な気持ち悪い笑いじゃない。何か、謀っているような、
「リヴァイ、俺を見てよ」
「何の、真似だ」
顎を持ち上げられ、無理矢理視線を合わせられる。何が見ろ、だ。お前こそ俺を見ろ、クソ。「言いたいこととは……ああ、付き合って一年も経つのに、まだ手も繋いでないこと?それとも、キスやセックスをしてないこと?」
「……チッ」
図星だった。このクソ真面目な男は、付き合っているのかというぐらい手を出してこない。別にプラトニックな恋愛でも俺は構わない。
だが……ナマエは、態度にも出さない、口にも出さない。それで不安になる。どこぞの思春期の女子かというくらい、怖くなってしまう。
「ふふ、図星ですか。可愛いひとだ」
「クソ、死んじまえ愚図」
「俺が死んだら泣いちゃうくせに」
「無駄口叩く、っ!」
ナマエを見上げた瞬間、唇を喰われたかと思ったぐらい、がぶりと豪快にキスされた。
酸素を奪うような荒々しいキスに、俺は軽い酸欠状態になった。クソ、いくら走っても息切れすることはないのに。
「はは、もうふらふらしてる」
「ちく、しょ……」
「今夜は空けててね、予定」
妖しく笑うナマエに、俺はただ頷く他はなかった。