Under the rose
※ネタバレ含むベルトルトは、ライナーと何かを話しているようだ。俺に気づいて、ライナーとの話を切り上げて、こちらに駆け寄ってきた。
「やぁ、ナマエ。今日は疲れたな」
「あ、ああ…そうだな」
「どうかしたのか?顔色が悪いぞ」
「……その、話があるんだ」
「ここじゃ話せないようなことなのか?」
「…ああ」
「分かった、場所を変えよう」
そう言って、ベルトルトに連れて来られたのは、彼の部屋だった。部屋の主である彼は、二段ベッドの下段に腰かけた。
「ナマエはこっちの椅子に座って」
「ああ、悪いな」
「それで……話って?」
切り出しにくい話だ。ベルトルトの黒い瞳が、こちらを真っ直ぐ見てくるから尚更言いにくい。
それでも、言わなければ、聞かなければ。
「ベルトルトはさ……今日のあの超大型巨人が出現した時に、何してた…?」
「あの時?あの時は…緊急収集がかかったから、みんなのところに走っていたよ」
「本当か?」「なんだよナマエ。僕を疑っているのかい?」
「俺は……お前が壁の上にいるのを見た」
はっきり彼の姿を見たんだ。下を見下ろして、そのまま自然と落ちたところまで。
ベルトルトは微笑を浮かべたまま、何も言わない。ただ、目だけは何かを警戒しているようだ。
「お前は……なんで、壁の外に落ちたんだよ」
「…………」
「……何とか言えよ」
「…どうして欲しい?」
「は?」
ベルトルトはゆらりと腰かけていたベッドから立ち上がった。やはり、190センチを超える彼の威圧感は半端じゃない。
「ねえ、どうして欲しいの?僕は本性をみんなにバレたら困るんだ」
「ど、いうことだよ…」
思わず椅子から立ち上がった。それでも目線は上を向かなければベルトルトを視界に捉えることができない。
ベルトルトはまた笑って、「分かってるくせに」と言った。分からない、コイツが何を言っているのか。
無意識のうちに後退りしていて、とうとう壁際まで追い詰められてしまった。
とん、とベルトルトの手のひらが顔の横の壁に置かれる。
「ナマエってば、いつの間にそんなにずる賢くなったんだい?ああ、ジャンのせいかな?」
「意味、わかんねえって…っ!」
「いつから僕が…超大型巨人だと気づいていたの?」
「……え?」
ベルトルトが、あの超大型巨人…?
俺の反応を見た本人も、目を丸くして、「え?」と間抜けな声を漏らした。
「ベルトルトが、え、嘘だろ…?」
「……はあ、やっぱりナマエはずる賢くなった」
「おい、いつからだよ!?もしかして、あの五年前のアレも、」
「うん。……はは、傷ついた?」
ベルトルトは自嘲気味に笑い、俺の首をするりと撫でる。怖い。目の前にいる普通の人間であるはずの彼が、怖い。
あまりの恐怖に震えていたのか、俺の手に指を絡ませる彼は、小さな声で「震えてる」と呟いた。
「ねえ、秘密を守ってくれるなら、今は殺さないであげる」
「……お前、最低だな」
「それは人間も巨人もだろう」
「チッ…」
くすくす笑うベルトルトの足を踏みつけてやる。ムカつく。
「ねえ、ナマエ」
「なんだよ」
「僕のこと、嫌い?」
「……嫌いだ」
ベルトルトは悲しげに目を伏せ「そう」と呟いた。そして、そのまま顔を近づけて、
「…っ!てめえ、何を……」
「誓ってよ、僕の正体を秘密にするって」
涼やかな顔をするヤツとは対照に、俺は顔に熱が集まるのを感じた。
俺が好きだと分かっていて仕掛けるベルトルトは、狡い。
秘密を守る
( Under the rose )