不器用な愛情表現
もう何日経っただろうか。初日辺りまで抵抗していた身体や意思は、目に見えるほど弱くなっている。
彼の強い眼は、濁っていて僕じゃない何処かを見ているようだった。
「おはよう、エレン」
「ナマエ……」
「ご飯、持ってきたよ」
「…………」
エレンは僕に腕の自由を奪われているから、食事の介助から下の処理まで僕にしてもらわなければならない。
彼は、僕がちぎって口に運ぶパンを食べなかった。硬く口を閉ざし、顔を俯かせた。
食欲がないのか、餓死する気か。わからなかったが、とにかく食べさせなきゃ。ミカサやアルミンに怒られちゃう。
「っ!ん、ふ…っ!」
「っは、エレン、食べて。死んじゃうよ」
「……だ」
「え?なに?」
「死んだ方が……マシだ…!」
ぼたぼたとエレンの大きな瞳から、生ぬるい涙が落ちる。初日以来の涙だった。そんなに、嫌だったんだ。
「な、んで、おまえが、泣いてんだよ゙…!」
「あれ…?」
知らないうちに僕も泣いていた。エレンは泣くのを止めて、不思議そうに見ていた。
分からない、僕には、泣いた記憶すらないから。
「ねえ、エレン。僕、君のこと…」
エレンに言おうとしたその時、外が騒がしいことに気づいた。ああ、もうお仕舞いか。短かったな。
僕は懐から初めて人を殺したナイフを取り出して、自分の首に切りつけた。
「おい、ナマエ、何して、」
「エレン、ごめんなさい。僕は…君を怖がらせた。君を監禁して、踏みにじった」
エレンの目が、みるみる涙で濡れていく。あんまり泣いちゃうと目が赤くなっちゃうよ?そう思いながら、涙を拭おうとして…止めた。
大嫌いな僕にエレンは触れて欲しくないだろうから。
「ありがとう、エレン。こんな僕に愛する気持ちを与えてくれて。結果的に、歪んだ愛情だったけど……」
「やめろ、やめてくれ……やだ、やだやだ…っ!」
「そろそろお迎えが来るから、泣かないで、エレン」
ぎゅっとナイフの柄を握りしめ、深呼吸をする。あの日、僕はひとを殺した。それ以来、泣いてない。
「ごめんなさい、だいすきだったよ」「俺も、俺も、ナマエのことっ、だいすきだったのに…っ!」
血まみれになった僕を、エレンは構わず抱き締めて、獣のように咆哮した。いつまでも、抱き締めて咆哮した。