隣人を疑え
※現代パロディ
俺は携帯電話の着信履歴を見てため息を一つ吐いた。なんだって言うんだ。苛立たしいし、気持ち悪い。
俺の気分を害しているものは、登録していない番号から怒涛の勢いで着信が来ることだ。
今日こそはかけて片を付けてやる。そう鼻息荒くしながらかけてみた。
「もしもし」
『…………』
「もしもし?」
『…………』
「おい、なんとか言えよこのストーカー野郎!!」
『…………ぃ』
「あん?なんだよ、もっとでけえ声で喋れよ」
『か、かわいいいジャンの声可愛すぎるぅうううううう!!!』
は…?あまりの声のデカさに俺は怯んでしまった。なんだよコイツ気持ちわりいな、って頭で思っているのに、口から何も出ない。
ていうか何も言えねえ。どっかの水泳選手みたいなコメントだけど、マジで何も言えない。
このストーカー野郎がべらべら気持ちわりいことを捲し立てるから、呼吸すら止めてしまう。気持ち悪い、ほんとに。
「お、い…」
『ああっ!ごめんねごめんなさい、ジャン君の声を聞いたらテンションがおかしくなっちゃってああもう可愛すぎるよジャン君〜〜っ!』
「…き、きもちわる」『え、つわり…じゃなくて、気分悪いの?大丈夫?お家行った方がいいかな?』
「いい!!来るな!つうか家知らねえだろ!」
『え?知ってるよ俺』
「……………………はああああ!?」
あり得ないマジで気持ちわりいショック吐きそうどっかで聞いた声。目の前がぐるぐるしてきて、俺は迷わず電源ボタンを長押しした。
そのまま玄関の鍵をかけて、布団をかぶってガタガタ震えて寝た。
「……あっ、ジャン先輩!」
「ん……あれ、ナマエにマルコ…」
「おはようジャン。ナマエ君がね、ジャンの様子が気になったから会いたがってたんだ」
「……ふうん」
「すみません先輩、どうしても気になっちゃって……」
しょんぼりと肩を落とすナマエは可愛い大学の後輩だ。マルコは安心したように笑って、立ち上がった。
どこかに行くのかと尋ねたら「今日は授業があるから」と申し訳なさそうに笑った。
「ふふ、ジャン先輩って…やっぱり鈍感ですね」
「は…?何がだよ」
マルコが去って静かになった部屋で、ぽつりとナマエがそう言った。怪訝そうに見上げる俺の頬を手で包み込み、楽しそうに告げた。
「昨日はどうしたの、『ジャン君』」
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ギャグにしたかったのに、何故かホラーになったジャン。ジャン可愛いジャン!