11 6月ももう終わる頃、俺は衝撃的な場面に遭遇してしまった。
自主練を終え、下駄箱に向かっていた道中だった。トイレの前を通り過ぎた時に、すすり泣くような声が聞こえた。
「……ッ、ぁ……っ…ひっ………ぅ…!」
幽霊か?人間か?
ばくばくと音をたてる心臓に手を当てて、恐る恐るトイレに入る。声は洋式の方から聞こえてきた。
「あおみ、ね、くっ、あ…ッ!」
「大輝って、呼べ、よ!沙藤…」
「大輝、だいき…!」
声だけだったが、恐らく行為の真っ最中だった。俺はあまりにもショックで、どうやって家に帰ったか覚えていない。
まさか、そんな、あの二人が。俺の頭の中でぐるぐるぐるぐる回る。
「気持ち悪い…きもちわるい……」
天野の甘ったるい嬌声が耳にこびりついている。何度も何度もシャワーで洗い流したつもりなのに、全然消えない。
いつも通り部屋着に着替えて、ストレッチをして床に就いたのに眠れない。頭の中であの声が、繰り返し再生されるからだ。
「クソっ…どうなっているのだよ…!」
そのまま俺は一睡も出来ずに朝を迎えた。朝日が昇った今になって眠気が襲う。頭痛も酷いし、心なしか身体が熱い。
「…っ…ぁ゙……」
声もがらがらとした声で、風邪を引いたことに気づいた。何故だ。俺は人事を尽くしてきたつもりなのに。
母に風邪を引いたと伝えると氷枕を敷き、額に冷却シートを貼られた。
「今日はもう休みなさい」
「は、い゙……」
母の言葉に甘え、重くなる瞼に抗わず、そのまま夢の中へ引きずり込まれた。願わくば、沙藤が出てこない夢を見たい。
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